本研究では、金属カチオンおよび芳香族基質間のカチオン-π相互作用を利用した単純芳香族化合物のC-H官能基化反応の開発を検討した。従来のC-H官能基化反応の多くは適用可能な基質が配位性官能基を持つものに限られており、官能基を持たない基質または配位性官能基から空間的に離れた位置のC-H結合の官能基化は困難であった。そこで、本研究ではこれらの問題を克服するために、官能基を必要としない高効率、高選択的なC-H官能基化反応の開発に焦点を当てた。 理論計算によりカチオン-π相互作用を最大化し得る配位子設計を行った後、実際に望みの配位子の合成に成功した。配位子は遷移金属に対して配位可能なユニット、金属カチオンを取り込むユニット、およびそれらを連結するリンカーユニットから構成されており、合成経路を最適化することで多様なリンカー部位を持つ配位子の迅速合成が可能となった。加えて、本合成法は反応効率が高く、配位子のスクリーニングを容易に行うことができた。 合成した配位子を用いてC-H官能基化の開発を検討した。特に、生成物の有用性を鑑みてC-Hホウ素化反応やC-Hカルボキシル化反応の開発を目指したが、当初目的とした芳香族C-H官能基化の開発には至らなかった。これは基質の活性化能が想定したものよりも低く、そのため効率的な反応が進行しなかったためと考えられる。しかしながら、アミン類の新規C-H官能化を見出すことに成功し、新たな研究の展開を見出すことが出来た。
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