研究課題/領域番号 |
15K17857
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
海老根 真琴 九州大学, 理学研究院, 助教 (70545574)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 天然有機化合物 / 抗真菌活性 / 構造確認 / 有機合成化学 |
研究実績の概要 |
抗真菌活性を持つ海洋由来の天然有機化合物アンフィジノール3の構造を明らかにするために、合成研究を行った。
これまでの研究からアンフィジノール3のC38-C39位の相対立体配置が正しくない可能性が高いと考えられ、前年度に全構造のおよそ三分の一に相当するC31-C67部分の合成を行ったが明確な結果が得られていなかった。そこで、合成中間体を利用して天然物の構造決定時と同様の分解実験を行い、全く同一の平面構造を持つ化合物同士の比較からアンフィジノール3のC38/C39位の立体化学を明らかにしようと考えた。合成したC38R/C39R体、C38S/C39R体と天然物の分解物の1H NMR化学シフトを比較したところ、C38S/C39Rと天然物の分解物のデータが一致し、天然物のC38/C39位の絶対立体化学を明らかにすることができた。
一方、全合成に向けて解決すべきもう一つの問題点として、C29-C30位間の結合形成を挙げていた。これまで長鎖化合物と大型フラグメントとの連結を可能にする反応条件を見付けることができていなかったが、合成容易なモデル化合物を用いた実験により、塩基の濃度を工夫することで鈴木―宮浦反応における連結効率が大きく変化することが分かってきた。実際の基質を用いた反応条件の最適化には今後の検討が必要であるが、本問題点を解決できる糸口が見つかったことで研究が大きく進展すると期待される。 なお、C29-C30結合形成反応のモデルとして、鎖状ポリオール部分(C21-C29部分)と1つのテトラヒドロピラン環(C30-C40部分)の連結を行い、さらにポリエン鎖(C53-C67部分)を導入してアンフィジノール3の短縮型類縁体を合成した。抗真菌活性の測定を行った結果、当該化合物は抗真菌活性を発現しないことがわかり、抗真菌活性発現には2つの環状エーテルが必要であることが示唆された(論文投稿済)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
アンフィジノール3の提出構造と実際の構造が予想以上に異なっていたことがまず第一の理由であり、その解明に想定していた以上の時間と労力を費やす必要があった。しかし、正しい構造を明らかにすることは本研究課題の主要な目的の一つであるため、必要な時間であったと考えている。
また、分子サイズが大きくなるに連れて観測された反応性の明らかな低下への対応が困難であったことが第二の理由であると感じている。これはおそらく反応点の制限や物性の変化等に由来する独特な性質ゆえであろうと推察され、小さな化合物に対する従来の条件検討法とは異なる、より広い視点で反応を見つめ個別に対応できる柔軟な発想と深い洞察力が必要であると感じている。本件に対する本質的な問題点の認識およびその解決策を導出することは容易ではないが、解決の糸口は掴みつつある。今後の研究により本件を解決できれば、今後の中分子合成戦略に応用可能な有用な知見や方法論が提供できると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今回明らかにした立体化学を有するアンフィジノール3の全合成を行い、最終的な構造確認を行う予定である。全合成に必要な部分構造(C1-C29部分、C30-C52部分、C53-C67部分)の合成経路は既に確立してあるため、今年度の研究によって明らかになった立体化学を持つC30-C52部分構造の合成を同様の方法で行う。他の部分構造についても今後の研究に備えてある程度の量を確保すべく再合成を行う。課題となっているC29-C30結合形成反応については、まずモデル化合物を用いて反応条件の探索・検討を行い、ある程度目途が立ち次第実際の基質での合成を試みる。C29-C30結合形成後はポリエン(C53-C67部分)を導入し、保護基の除去を行ってアンフィジノール3の全合成を行う。各種NMR測定を行って詳細に解析し、天然物とNMRデータの比較を行うことでアンフィジノール3の構造確認を行う。
また、合成中間体から容易に誘導可能な分子長の異なる類縁体を複数合成し、それらの抗真菌活性および溶血活性を評価することで、各活性に必要な構造要件を探るとともに、高い抗真菌活性を維持しながら溶血活性を低下させた人工類縁体の創出をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
微量サンプルのNMR測定に使用する特殊な試料管を注文していたが、予想以上に納期がかかり、当該年度中の納品は不可能であった。そのため、その分の予算を次年度へと繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
当該商品は平成29年4月上旬に納品されたため「次年度使用額」を利用して支払う予定である。
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