前年度までにアンフィジノール3のC38/C39位の立体配置の確認を行い、1999年に決定されたC38位の絶対立体配置(38R)は誤りであったことを明らかにしていた。既に合成していたC31-C67セグメントのうち正しい絶対配置(38S/39R)を持つ化合物のNMRデータが天然物と一致しなかった原因を探るべく、C38/C39位を含むAB環周辺部分に関して合成品と天然物のJ値を比較したが、大きな違いは見られなかった。このことから、当該合成品と天然物はNMR溶媒中で同じような配座を取っていることが示唆された。配座が同じであるのに化学シフトを再現しない理由として、合成品と天然物の構造の違いに着目した。C1-C30部分の欠損が最も明確な違いであるが、実際にAB環連結部の化学シフトに影響を及ぼしそうな原因として、C30-C31二重結合の磁気異方性効果が考えられた。この件に関して、今後計算科学実験を行い検証したいと考えている。以上の結果をまとめ論文投稿を行い受理された。
C38位の絶対配置の改訂は、隣接するC32-C36位の絶対配置も同様に改訂されることを示しており、アンフィジノール3のA環とB環は互いに鏡像異性体の関係にあることが強く示唆された。本結果を受け、全合成により全立体構造を確認する必要があると考えられた。AB環セグメントをポリオール部分(C1-C29セグメント)と連結させるためには、既に合成済みのAB環部化合物(C31-C52部分)からC30-C52部分に相当するハロゲン化ビニルへと誘導する必要があるが、保護基や立体配置の違いからか、以前類似した基質で開拓した条件では思うような収率・再現性が得られなかった。そのため反応条件の再検討と最適化を行い、正しい立体配置であるC30-C52部分の合成の目途が立った。近い将来には全合成を達成できるものと期待される。
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