研究課題/領域番号 |
15K17858
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
小野寺 玄 長崎大学, 工学研究科, 助教 (90433698)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ホスフィン-ボラン / アリルアルコール / アリル位アミノ化 / アリル位アルキル化 / パラジウム |
研究実績の概要 |
本研究では、ルイス酸性のホウ素部位を分子内に持つホスフィン化合物(ホスフィン-ボラン)を配位子として利用することで、高活性遷移金属触媒を創製することを目的としている。特に、不活性な炭素-酸素結合の切断を鍵とする触媒反応の開発を目指している。 はじめに、多様なホスフィン-ボラン配位子を準備して体系的に検討を行うために、その合成法を確立した。リンおよびホウ素上には多様な置換基を導入することに成功し、リン原子とホウ素原子を連結するリンカー部位については、エチレン基、プロピレン基、オルトフェニレン基を有するものを各種合成した。結果的に14種類の多様なホスフィン-ボラン配位子を合成し、それらを有するパラジウム触媒の触媒活性を比較検討した。 合成した各種ホスフィン-ボラン配位子とパラジウム錯体を用いて、アリルアルコールの直接的なアリル位置換反応における触媒活性を調べた。予備実験の結果、ある種のホスフィン-ボランがアリル位アミノ化反応に高い触媒活性を示すことがわかっていたが、新たに合成したホスフィン-ボラン配位子を用いてさらに配位子の構造と触媒活性との相関を調べた。また、アルキル化剤としてマロン酸エステル等の活性メチレン化合物を用いて、塩基を加えない条件下でのアリル位アルキル化反応についても触媒活性を調べた。その結果、アリール基を持つホスフィン部位と9-BBN骨格を持つホウ素部位とがエチレン鎖で連結された配位子がアリル位アミノ化およびアルキル化反応のいずれにおいても最も高い触媒活性を示した。 これまでの研究成果によって、アリルアルコールのアリル位炭素-酸素結合を効率よく切断することのできるホスフィン-ボラン配位子の構造が明らかとなった。これはより不活性な構造のアリルエーテル等の炭素-酸素結合の切断に向けて重要な知見であり、さらには炭素-窒素結合の切断にも応用可能であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、現在までに多様なホスフィン-ボラン化合物の合成法を確立し、14種類のホスフィン-ボラン化合物を合成した。得られた配位子を用いてアリルアルコールの直接的なアリル位アミノ化反応およびアルキル化反応における触媒活性を調査した。アミノ化反応には各種第2級アミンを用い、アルキル化剤には活性メチレン化合物を用いて、いずれの反応においても塩基を加えずに中性条件下で触媒反応を行った。その結果、アリル位アミノ化反応とアリル位アルキル化反応のいずれの場合にも9-BBN骨格を有するホスフィン-ボランが最適であることを明らかにした。反応溶媒等の反応条件を最適化することにより、高収率でアリル位置換生成物を得ることができた。特にアミノ化反応においては、従来法と比べて大幅な加速効果が見られた。アリルアルコールの適用範囲について調べたところ、アミノ化反応においては多種多様なアリルアルコールを用いることができ、その嵩高さのために反応性が低いプレニルアルコールや第3級アリルアルコールを用いた場合にも高収率で対応する生成物を得ることができた。一方、アリル位アルキル化反応においては、α位およびβ位に置換基を導入しても反応を妨げること無く高収率で生成物が得られたが、γ位にフェニル基を導入したシンナミルアルコールを用いると対応する生成物の収率が中程度へと低下した。求核剤として用いるアミンについてはアニリン誘導体が特に高い反応性を示したが、脂肪族アミンも良好に反応した。活性メチレン化合物としてはマロン酸誘導体とβ-ケトエステル類を用いることができ、対応する生成物を高収率で得ることができた。以上のように、本研究は当初計画した通り、ホスフィン-ボラン化合物の合成法の確立とアリルアルコールの直接的アミノ化反応およびアルキル化反応の開発まで順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は計画通り、ホスフィン-ボラン配位子を用いたα-ビニル環状エーテルおよび環状アリルエーテルのアリル位置換反応へと研究を展開する。α-ビニル環状エーテルや環状アリルエーテルは、環骨格に由来する立体障害によってπ-アリルパラジウム中間体が形成されにくく、より高活性なパラジウム触媒の開発が望まれている。本研究におけるこれまでの成果によって、ホスフィン-ボラン配位子を有するパラジウム触媒が、アリル位置換反応に従来用いられてきたパラジウム触媒と比べて大きく活性が向上していることが明らかとなっており、上述したようなより高難度のアリル位置換反応への応用が期待される。これまでに合成したホスフィン-ボラン配位子を用いて触媒反応を試み、必要に応じて新たな配位子の設計および合成を行う。 また、アリルアルコールを用いたアリル位アミノ化反応およびアルキル化反応に関しては反応中間体の特定など詳細な反応機構の解明を目指す。具体的には触媒とアリルアルコールとの化学量論反応を行い、NMR等の各種スペクトルの変化を観察することで反応中間体に関する知見を集める。 一方、アリルアルコールにおける炭素-酸素結合の活性化法をベンジルアルコールへと拡張した、ベンジル位置換反応にもすでに着手している。現在までにある種のホスフィン-ボラン化合物を配位子とした場合にベンジルアルコールの直接的なベンジル位アミノ化反応が高収率で進行することを見出している。今後はこのベンジル位アミノ化反応における反応条件および基質適用範囲についても検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張旅費が当初の予想よりも低額で済んだことと、平成27年度は論文投稿を行っていないためにそれに伴う謝金が不要となったことが当該助成金が生じた主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度分として請求した助成金と合わせた使用計画を下記に示す。引き続き有機合成用試薬類および実験用消耗品が必要であるため、967,002円を物品費として使用する。学会発表に必要な旅費として当初の予定通り300,000円を計上する。論文投稿を行うため、その投稿費用や謝金として100,000円を使用する。その他経費として50,000円を計上し、合計で1,417,002円を使用する計画である。
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