近年、トリフルオロメチル基を有する有機化合物が、医薬品候補群および農薬の多くに見られる。トリフルオロメチル基が、もとの骨格分子の脂溶性や代謝安定性を向上させることで薬理動態をしばしば改善するためである。このため、トリフルオロメチル化合物の合成手法は盛んに研究されている。しかし、立体化学の制御を伴う反応の開発は、大きく立ち遅れていた。本研究では、申請者のこれまでの研究成果をもとに光学活性な超原子価ヨウ素を不斉触媒とする立体制御を伴うトリフルオロメチル化反応の開発研究を行った。昨年度は、トリフルオロ酢酸無水物より系中で調整したジアシルペルオキシドが酸化剤だけでなくトリフルオロメチル源として働くことができることを明らかにした。本年度は、本反応剤の反応性の基礎的な理解が目的の不斉反応の開発において鍵になると考え、種々の検討を行った。その結果、ジアシルペルオキシドは、40度の加熱条件では分解せず、1価の銅塩や電子豊富な芳香族化合物が存在する場合に一電子移動を経て分解し、トリフルオロメチルラジカルおよび二酸化炭素を生じることがNMR実験などから明らかとなった。また、アルケンのトリフルオロメチル化反応においては、通常、トリフルオロメチルラジカルの生成が鍵であると考えられることが多い。しかし、本研究によって、中間体として生じるアルキルラジカルの反応性制御が効率の良い反応には必須であることが明らかとなった。超原子価ヨウ素中間体によってがアルキルラジカルの反応性制御に関与できれば、立体選択制の制御が同時に行えると考えている。
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