研究課題/領域番号 |
15K17861
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小門 憲太 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40600226)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ネットワーク高分子 / ゲル / 結晶 / 金属有機構造体 / 中空微粒子 / 人工筋肉 / 多孔性物質 / エピタキシャル |
研究実績の概要 |
本年度は、結晶架橋法を用いて生成するネットワーク高分子について、外側の形状のみならず、①内側の形状も制御されたもの、②内部の架橋構造が制御されたもの、の2種類について詳細な検討を行なった。 ①に関しては、MOFのエピタキシャル結晶成長を利用し、内核に架橋能のない有機配位子、外殻に架橋可能な官能基を有する有機配位子を精密に配置したコアシェル構造を作製して結晶架橋法を施すことで、外側のみがネットワーク高分子となった立方体形状の中空ネットワーク高分子の合成を試みた。その結果、配位結合の分解に伴って、外殻は膨潤しつつ内核は溶解する様子が光学顕微鏡観察によって確認され、内核の配位子のみの溶出もNMR測定により確認できた。 ②に関しては、ピラードレイヤー型のMOFを利用することで、結晶の軸方位によって架橋密度が異なるネットワーク高分子の作製を試みた。本研究ではカルボン酸型の配位子に架橋可能な官能基を導入し、ピラー配位子は架橋能のないものを用いた。結晶架橋法を施した結果、得られたネットワーク高分子は良溶媒中で異方的な膨潤挙動を示した。配位結合の分解に伴い、ピラー配位子のみが溶出されたことはNMR測定によって確認できた。 このように本年度は、架橋可能な配位子と架橋不可能な配位子の空間的な配置を、MOFの結晶構造の観点から精密に設計し、①多面体形状の中空ネットワーク高分子、②異方膨潤挙動を示すネットワーク高分子、という、既存の方法では作製することが困難であった新奇なネットワーク高分子の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、結晶架橋法を用いて生成するネットワーク高分子について、外側の形状のみならず、①内側の形状も制御されたもの、②内部の架橋構造が制御されたもの、の2種類について詳細な検討を行なった。その結果、架橋可能な配位子と架橋不可能な配位子の空間的な配置を、MOFの結晶構造の観点から精密に設計することで、①多面体形状の中空ネットワーク高分子、②異方膨潤挙動を示すネットワーク高分子、という、既存の方法では作製することが困難であった新奇なネットワーク高分子の作製に成功した。さらに、①に関しては、内核のMOF作製時に金属微粒子や高分子微粒子を共存させることで、微粒子を内包した中空ネットワーク高分子となることが確認できた。輸送材料としての応用も視野にいれて研究を遂行している段階である。②に関しては、酢酸銅型のシート構造の重要性に着目することで、結晶架橋法における架橋の段階で留めておくと何度でも可逆的に異方伸縮する材料となることも見出している。このように、当初計画では予想していなかった結果が幾つか得られていることから、本研究の現在までの進捗状況は、「当初の計画以上に進展している」と結論づけることができる。
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今後の研究の推進方策 |
まず1つ目として、Huisgen環化以外の反応性官能基(アミン・カルボン酸・チオールなど)を有機架橋配位子(TPDCなど)に導入し、MOFを形成させ、多官能性架橋剤と有機配位子間の架橋の反応によりさまざまなネットワーク高分子の構築を狙う。特に動的コンビナトリアル化学で用いられている可逆・平衡系となるイミン形成やジスルフィド形成などを用い、理想的な網目構造の構築を行う。生成したネットワーク高分子の力学強度と網目の理想性の相関を詳細に検討する。また、ネットワーク構造の測定としては、プローブ顕微鏡を用いた押込試験などによって、力学特性を測定するとともに、散乱光実験によって内部のネットワークに関する情報を詳細に得る予定である。実際の応用に向けて、①大きなサイズの結晶の作製、②他の高分子からなる膜への共有結合あるいは非共有結合を介して包埋したものの物性解析、に関して検討を行なう。 2つ目として、ピラードレイヤー型のMOFを利用し、レイヤー間架橋の可能性を限りなく0に近づけることで、2次元的な規則構造をもつ単層の高分子シートを合成する。具体的な手法としては、ピラー配位子の長さと太さを調節し、架橋反応を面内のみに選択的に起こすようにすることで可能になると考えている。得られた単分子厚の2次元シートは、タンパク質の安定化剤やグラフェンの前駆体としての応用を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、学内の共同利用施設による測定分析を行なうことで、設備備品費に予定していた金額を節約したことに加え、既所有の試薬を駆使することで消耗品費も大幅に節約できたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降は上記の節約を継続することは難しいため、主に消耗品費に使用額を充当する予定である。
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