本年度は結晶架橋法を用いて生成するネットワーク高分子について、内部の架橋構造を制御するべく、さまざまなピラードレイヤー型MOFを用いた検討を行なった。ピラードレイヤー型MOFを用いた場合に結晶の軸方位によって架橋密度を制御できることは前年度に見出している。本年度見出した新たな知見として特筆すべきは、金属配位構造を加水分解することなく、錯体レイヤーを残した状態で2官能のピラー配位子のみを1官能のリベレータ配位子へと配位子交換すると、錯体レイヤーのみが架橋剤で繋がれたネットワーク高分子が得られたことである。このネットワーク高分子は膨潤媒の有無によって一軸方向に可逆的に異方変形挙動を示し、他の軸方位には全く変化を示さないことが明らかとなった。伸縮の大きさは30%程度と筋肉に匹敵する大きさであり、単結晶X線回折測定によって、この一軸方向での可逆伸縮が二次元レイヤー間距離の変化に起因していることが明らかになった。本手法では原料となるMOFの結晶秩序からゲルの変形挙動を予測することが可能であり、等方的な溶媒を用いても異方変形挙動を示した。 また、結晶架橋法で生成する多面体形状のネットワーク高分子を鋳型として無機塩である炭酸カルシウムやリン酸カルシウムの結晶成長を行なった結果、いずれの無機塩においても全体の形状をMOF由来の立方体や正八面体に成形することが可能であった。炭酸カルシウムにおいてはカルサイトが生成することが粉末X線回折測定によって明らかになった。 このように本年度も前年度に引き続き、既存の方法では作製することが困難であった新規なネットワーク高分子の作製に成功した。
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