本研究は、バイオミネラリゼーションの形成機構に学び、有機高分子と無機成分を複合化することにより、薄膜状のリン酸カルシウム薄膜の作製および新しい環境低負荷・高機能複合材料の構築を目指した。バイオミネラリゼーションでは、タンパクや生体高分子の働きによって、アモルファス前駆体が安定化され、それが有機高分子の自己組織構造のテンプレートに染み込むことにより分子レベルで複合化した、かつ、広範囲の配向構造をもつ複合体が構築される。そこで、我々が開発してきた手法を用いてリン酸カルシウムおよび炭酸ストロンチウムの構造制御と薄膜作製を試みた。 本年度は、ヒドロキシアパタイトの薄膜形成および、その表面モルホロジーの制御について有機高分子基板の分子構造およびプロセスが及ぼす影響を調べた。ポリアクリル酸を用いたアモルファス状リン酸カルシウムの分散溶液に高分子基板を浸漬したところ、速度論的に安定なオクタリン酸カルシウムの薄膜が形成する事を見出した。この準安定な結晶はヒドロキシアパタイトの前駆体となり、穏やかなアニールによって、配向を維持したまま結晶形を転位出来る事が分かった。用いる高分子の構造が複合体のモルホロジーに大きく影響を及ぼし、5マイクロメートルの規則的な凹凸構造を有する薄膜の作製に成功した。 また、無機結晶の結晶成長基板としてポリフェニルイソシアニドを基板から重合した高分子ブラシの開発に取り組んだ。基板にパラジウム錯体からなる開始剤を化学修飾し、リビング重合により均一に長さのそろった高分子ブラシの作製に成功した。このポリマーはらせん構造をとっており、重合反応にキラルドーパントを加えることにより、一方向巻きのらせん構造がえられた。高分子ブラシの官能基変換が今後の課題であり、テトラヘキシルアンモニウム塩などの有機塩を用いた重合条件の開発が必要である。
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