研究課題
本年度、コンプトン散乱実験をLixFePO4に適用し、コンプトンプロファイルの測定を行なった。LixFePO4は、結晶構造の安定性や熱安定性に優れており、高速充放電可能な正極材料としてすでに実用化されている材料である。これまで、X線吸収分光法やX線発光分光法により、その電極メカニズムには、鉄3d軌道が関与することが報告されている。我々は、化学的にLi組成を変化させたLixFePO4(x=0, 1)のコンプトンプロファイル(電子運動量密度分布)を測定し、その差分コンプトンプロファイル(LiFePO4のコンプトンプロファイルからFePO4のコンプトンプロファイルを引いたもの)を第一原理計算から得られた理論コンプトンプロファイルとの比較を行なった。理論コンプトンプロファイルでは、鉄3d軌道の原子モデル、LixFePO4のFeO6八面体を歪ませないモデル、及び、FeO6八面体を歪ませたモデルを仮定した。その結果、FeO6八面体を歪ませたモデルにより実験結果を再現でき、リチウム挿入により結晶構造が歪むこと、本試料の電極反応にはFe3d軌道が寄与することがわかった。また、差分コンプトンプロファイルから得られる運動エネルギーとDFT+U計算法によるハーバード・パラメータUとの間に線形関係が成り立つこと、さらに、このパラメータUがLiFePO4とFePO4の全エネルギーから計算される電池電圧に比例することを見出した。このことから、本手法が最適な電池容量を予測するための手法として利用できることが示唆される。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、計画通りLixFePO4のコンプトン散乱実験を行い、本試料のリチウム挿入・脱離に伴う酸化・還元軌道には鉄3d軌道が関与することがわかった。また、運動量密度分布の変化から見積もられる運動エネルギーと系の電池電圧との間に線形関係が成り立つことを見出した。本研究により得られた成果を現在論文にまとめており、概ね順調に研究が進展していると考えている。
今後の研究の推進方策として、一昨年度から続いているLixMn2O4の磁性相における解析を引き続き推進し、論文にまとめたいと考えている。また、これまでに得られた正極材料の電極反応メカニズムを基に、実電池を用いたLi濃度オペランド定量分析法を展開していきたいと考えている。
次年度使用額に差額が生じたことの理由は、国際会議の航空券を想定より安く購入できたことによるものである。
平成29年度は、本研究計画の最終年度となる。そのため、論文の執筆、ならびに、国際会議等での研究成果報告を昨年度以上に行うことを考えている。次年度使用額の差額は、論文投稿料や国際会議の旅費の一部として使用する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Journal of Applied Physics
巻: 119 ページ: 025103 1-6
10.1063/1.4939304
Applied Physics Letters
巻: 109 ページ: 073102
10.1063/1.4961055
http://www.st.gunma-u.ac.jp/news/documents/2016/news2016011301doc01.pdf