研究課題/領域番号 |
15K17879
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
桑原 彰太 中央大学, 理工学部, 助教 (10612658)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 色素増感太陽電池 / 過渡格子法 / 過渡吸収法 / 相界面のダイナミクス |
研究実績の概要 |
異なる機能を有する物質が接した相界面を利用すると、エネルギー変換や物質変換機能を発現させることができる。近年では光を電気エネルギーに変換する太陽電池が注目されており、特に色素増感太陽電池の実用化に向けた開発が積極的に進められている。色素増感太陽電池の場合、光を電気エネルギーに変換する場は酸化チタン/色素/電解液界面であり、特に酸化チタンナノ粒子上に吸着した色素の吸着状態にその性能は大きく影響を受ける。よって、界面に存在する色素の吸着状態を評価し、制御する技術を開発することは、色素増感太陽電池の性能向上に非常に重要である。しかし、相界面を観察する手法は限られており、実際に機能を発現している界面の状態を非破壊に評価できる測定手法が求められている。 本研究では、相界面を非破壊かつ機能が発現している状態で観察する手法として、時間分解分光手法を利用した。平成27年度は、まず屈折率の時間変化を追跡することによって、光電変換が起こる界面での電解液中のイオンの動きと色素の吸着密度との相関に関して明らかにした。また、光電変換効率に及ぼす因子として、特に逆電子移動過程への影響について調べた結果、吸着密度と吸着色素の構造により、電子の受け取り手である三ヨウ化物イオンの界面への接近を抑制でき、光電変換効率が高くなることを見いだした。さらに、吸収スペクトルの時間変化を新たに利用することで、色素の構造と電解液中のイオンとの相互作用に関して新たな知見を得ることに成功した。ルテニウム錯体を色素として用いた場合には、電解液中のヨウ化物イオンと100ミリ秒以上の長い時間にわたって相互作用し、吸収スペクトルのシフトを誘起することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
色素増感太陽電池の非破壊評価測定手法として、屈折率変化、及び吸収変化の時間変化を捉える時間分解分光手法を用いることで、界面に吸着した色素分子の構造、吸着状態が色素増感太陽電池の光電変換効率に与える影響について、研究計画のとおり進展させることができた。また、異なる色素、吸着状態を持った色素増感太陽電池を作製し、研究に適用することもできた。さらに、次年度の研究として、表面増強ラマン散乱を利用した色素増感太陽電池の相界面評価手法の確立を目指すが、そのために必要な金属ナノ粒子の選択的合成に成功している。また、透過型電子顕微鏡や吸収スペクトルを用いて、合成した金属ナノ粒子の構造と吸収特性を確認しており、次年度の研究準備も順調に進められた。
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今後の研究の推進方策 |
ラマン散乱測定装置の構築を行い、金属ナノ粒子薄膜による表面増強効果を利用したラマン散乱測定を行う。使用する光源には、金属ナノ粒子の波長に対応した600 - 800 nmの波長を用いる予定である。色素増感太陽電池の酸化チタン/色素界面上に金属ナノ粒子薄膜を塗布する方法を確立し、表面増強ラマン散乱スペクトルを得る。まず電解液を注入しない系で信号取得の確認をし、得られた表面増強ラマン散乱スペクトルから、色素の吸着状態に関する情報を読みとる。次に電解液を注入し、スペクトル変化の有無を確認する。その後、光電変換中の色素の吸着状態に関して明らかとするため、532 nmの励起光源を導入し、色素を励起した状態でラマン散乱スペクトルを測定することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
設備備品費として計上していたポータブルラマン分光器の購入は、代替機器の利用が可能となったため購入しなかった。一方、色素などの試薬購入費用や外部機関の機器利用料などの支出が予定を大きく上回った。よって、合計として次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額及び平成28年度助成金は、代替機器として用いるラマン分光器に必要な光学部品の購入、表面増強に必要となるナノ粒子合成の為の試薬購入、また色素増感太陽電池の作製に必要な物品、試薬の購入に充てる。さらに必要に応じて外部機関における機器利用によって、ナノ粒子の評価を行う予定であり、機器利用費としても使用する。
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