本研究では、電流標準などで用いられる単一電子の制御技術を利用することによって、単一電子精度での電気化学反応の検出を目指す。具体的な研究としては、(1)電気化学計測のセンサーとなるナノチューブ化学電極の作製技術の研究、(2)それらを用いた電気化学反応の計測を実現するための電流計測技術の開発という2つの柱からなる。これらの研究により電気化学反応を効率的に行う触媒メカニズムの解明やその知見を応用した医療・創薬への応用が期待される。前者のナノチューブ化学電極の開発に関しては、カーボンナノチューブを成長するためのアルコール原料を用いた石英管炉を改造した熱分解CVD成長装置を開発し、ナノチューブ素子の開発をおこなった。一方で、後者の電気測定技術の実験に関しては、単一電子精度の電気化学反応検出に用いるRF反射測定によるナノチューブ抵抗の高速読み出しの測定系を構築した。性能の検証として、単一電子素子と静電結合した電荷計にRFを入射し反射波をホモダイン検波して抵抗変化を実時間で高速測定し、単一電子の電荷移動を計測することに成功した。また、化学インピーダンス測定などで重要となる微少交流電流の計測技術として、超伝導デバイスを用いた低雑音電流アンプの開発した。さらに、単一電子制御によって単一電子精度でのデジタル変調を行う技術を新開発した。これによって極めて高精度な任意波形交流電流の発生技術を確立するなどの成果を得ている。これらの成果を発展させることによって、単一電子精度での電気化学反応の検出といった技術に展開できると期待される。
|