研究課題
当該年度では、extracellular signal-regulated kinase 2(ERK2)をモデル蛋白質として、その既存の薬剤との熱力学、速度論解析を行った。特に相互作用における活性化エネルギーに関する物理化学的解析を行い、構造情報と照らしながら、その分子認識メカニズム(遷移状態)の解明を行った。(1)ERK2-FR間相互作用の遷移状態測定まず、野生型のERK2 (WT)とFR間の相互作用のSPR法で測定し、遷移状態、終状態それぞれの熱力学的パラメーターを算出した。その結果、終状態ではエンタルピー得かつエントエロピー損である熱力学的プロファイルが観察された。一方で遷移状態では、終状態に比べて、エントロピーの不利な寄与が小さいことが明らかとなった。(2)アミノ酸残基レベルでの精密解析ERK2-FR間相互作用の結合サイト周辺において、終状態の結合形成には関係がないと想定されるアミノ酸をアラニンに置換した化合物を8種類作製し解析を行った。終状態の熱力学的パラメーターを比較すると、野生型と間で有意な差が存在しない変異体が多かった。このことは、アラニンに置換されたアミノ酸残基は終状態の結合形成には関わっていないことを示唆する。一方で、遷移状態の熱力学的パラメーターを参照すると、変異体は野生型に比べてΔH‡が減少し、ΔS‡が増大するという傾向が確認された。以上は、変異により置換されたアミノ酸残基が遷移状態において熱力学的な役割を果たしている可能性を示唆する。結合サイト周辺のアミノ酸残基をアラニンに置換することで、ΔH‡が減少し、-TΔS‡が増大したことから、遷移状態におけるERK2の挙動は以下のように推測できる。すなわち、遷移状態では、結合サイト周辺のアミノ酸残基が分子内で形成していた結合が緩み、同時に化合物が接近することで脱水和が起こる。終状態では、分子内の結合は元に戻り、再び水和され、結合が完了するというモデルが考えられる。
2: おおむね順調に進展している
ERK2とリガンド間の遷移状態解析を行うにあたり、その相互作用の定量的な速度論解析が必要となる。そこでSPRを用いて、ERK2のセンサーチップへの固定化最適化を行い、再現性の高い速度論解析可能な系の構築に成功した。さらに活性化エネルギー解析を行うために、会合速度定数、解離速度定数の温度依存性を再現よく定量的に解析できる実験系の構築にも成功した。これに伴い、複数種のアミノ酸変異体に対する活性化エネルギー解析を実行することができた。以上のように、蛋白質とリガンド間の相互作用における活性化エネルギー解析を行うための基盤となるアッセイ系の構築ができた。
次年度では、以下のポイントに注視して、ERK2とリガンド間相互作用メカニズムの解明に挑む。(1)他の阻害効果の異なる既存薬剤について活性化エネルギー解析を行う。(2)ERK2に対する低分子スクリーニングを実施し、ヒット化合物の取得を目指す。(3)物理化学的パラメータを活用して、薬剤と相互作用における蛋白質の動きとヒットバリデーションへの応用を検証する。
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