蛋白質の蛍光イメージングは、特定の蛋白質の細胞内動態や分子間相互作用を解析するための強力な手法である。しかし従来の蛍光蛋白質を用いた標識法は、標的蛋白質の機能阻害や融合蛋白質の過剰発現によるアーティファクトなど、いくつかの問題を抱えていた。本研究では、細胞内に内在的に発現している蛋白質を化学修飾によって選択的に標識し、その蛋白質が関与する動的な分子間相互作用を定量解析することを目指す。より具体的には、特異的かつ高効率な発蛍光型新規蛋白質ラベル化法を開発し、蛍光相関分光法によって特定の蛋白質間相互作用を高感度に検出する技術を構築する。平成28年度においては、前年度に開発した「N-acyl-N-alkylsulfonamide(NASA)」を反応基として有するリガンド指向性ラベル化剤の更なる最適化と細胞内内在性タンパク質ラベルの詳細な評価を行った。精製蛋白質を用いた試験管内実験によって、NASA型ラベル化剤は従来のリガンド指向性化学と比較して標的蛋白質をより迅速かつ高効率に化学修飾可能であることが示された。また、詳細な速度論解析を実施し、リガンド指向性化学における反応二次速度定数を算出した。特筆すべきことに、細胞内在性FKBP12を標的としたラベル化においては、反応時間1hで細胞内FKBP12の80% を修飾することに成功した。さらに別の標的蛋白質として、大腸菌ジヒドロ葉酸レダクターゼ(eDHFR)、葉酸受容体、熱ショック蛋白質90(Hsp90)などの細胞内ラベリングも可能であることを実証した。このラベル化手法の応用例として、細胞内在性Hsp90の阻害剤を評価するためのスクリーニングアッセイ系の構築に成功した。
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