新生糖タンパク質が小胞体において立体構造を形成する際や、固有の立体構造獲得後にゴルジ体へと移る際には様々な種類の糖認識タンパク質(レクチン)が関与している。こうした機構において、糖鎖は、分子シャペロンや積荷輸送体など一連のレクチンに認識されることにより、糖タンパク質の品質管理を司り、その運命の決定に関わる目印の役割を果たしている。本研究では、非還元末端グルコース残基を含む12糖からなる高マンノース型糖鎖について、酵母遺伝子破壊、化学合成、試験管内酵素反応を駆使して本糖鎖の安定同位体標識体を作出し、分子動力学シミュレーションと常磁性タグを応用した核磁気共鳴分光(NMR)法とを組み合わせた動的構造解析によって、そのコンフォメーション空間を明らかにすることに成功した。さらに、実験データによって裏付けられた分子シミュレーションにより、多様な構造を形成する糖鎖が分子シャペロンとの相互作用を通じて新たな立体構造を形成する、誘導適合に基づく分子認識の仕組みを理解することができた。これにより、糖タンパク質の立体構造形成、輸送、分解に関与する一連の高マンノース型糖鎖について、水中で揺動する立体構造情報を定量的に得るに至った。 さらに、神経幹細胞ではたらく糖鎖を人工分子骨格に結合したハイブリッド分子をデザインし、機能性糖鎖クラスターを創出した。得られた糖鎖クラスターを用いて精密NMR計測を実施することにより、細胞間コミュニケーションに関わる糖鎖-糖鎖相互作用の構造基盤を明らかにすることができた。
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