本研究の目的は、低毒性の環境水試料の有害性を計測・評価することを目的とした、液滴を用いた新規のハイスループットな環境計測手法を開発することである。本年度は、試料液滴の濃縮方法について検討した。まず、マイクロピペットを用いて、液滴を1個ずつ生成し、これらを用いた濃縮実験を行った。本研究では、液滴を濃縮するため、高浸透圧のゲル基板に液滴を接触させて、液滴から溶媒である水を取り除く方法を利用する。前年度に得られた知見として、液滴に高分子を添加しておくことで、穏やかな液滴濃縮を進行させることができることが確認されている。そこで、液滴にポリエチレングリコール(PEG)を、浸透圧差を調整するためゲル基板に電解質(リン酸バッファー(PBS))をそれぞれ添加し、PEG濃度を0.001-1 wt%、PBS濃度を1-100 vol%に設定することで、液滴が安定に濃縮することを確認した。また、これらの条件下では、液滴の周りにミセルが凝集し、コアシェル状の構造が形成されることを発見した。本現象により形成された構造は、液滴界面をより安定に取り扱うための保護機能として働く可能性がある。次に、スループットを向上させるため、マイクロ流路を用いて液滴を大量に生成し、同様の濃縮を安定的に実施可能であるかを検討した。PEG濃度を0.3 wt%、PBS濃度を50 vol%に設定することで、サイズの揃った微小な濃縮液滴を形成することが確認できた。一方で、液滴に電解質を加えると液滴の濃縮途中で液滴界面が不安定化し、液滴が破裂し濃縮できないことが確認された。そのため、微生物(浸透圧を制御するため培養液やバッファー液中に懸濁する必要がある)を内包した濃縮・分析試験を実施することができなかった。今後、電解質存在下で液滴界面を安定に取り扱う方法や、生きた微生物を使用しない分析試験方法を検討する必要があると考えられる。
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