本研究の目的は、有害物質の使用及び排出を伴わずに容易な粒径制御ができる銀ナノ粒子合成系において、粒子生成反応を詳細に検討し、その粒子生成・成長プロセスの解明を目指すものである。本系における銀ナノ粒子は、銀含有ガラス粉末をグルコース水溶液中に分散させ、これを加熱し、ガラスを徐々に溶解させることで生成する。平成28年度では様々な酸化ほう素、二酸化ケイ素、酸化ナトリウム及び酸化銀の4成分系ガラスを様々な組成で合成し、これを用いて銀ナノ粒子の生成を検討したところ、強いアルカリ性を示す酸化ナトリウムの組成が銀ナノ粒子の粒径に影響を与えたことから、平成29年度では反応溶液のpHが銀ナノ粒子の粒径に与える影響を検討した。 銀含有ガラス粉末を反応当初から低pHの溶液に加えるとその時点で溶解するため、これまでの系と同様に反応の進行とともにpHが減少する系により実験を行う必要がある。本研究では、還元剤として異なる種類の還元糖(グルコース、フルクトース、マルトース及びラクトース)を用いることにより反応系のpH制御を実現した。1~6 wt%の還元糖水溶液に市販品の銀含有ガラス粉末を1wt%加え加熱し、銀ナノ粒子生成反応を進行させたところ、還元糖濃度が同一の場合反応終了後のpHはフルクトース<グルコース<マルトース・ラクトース、銀ナノ粒子の粒径はフルクトース>グルコース>マルトース・ラクトースであった。本年度の結果と平成27年度に実施したグルコース系における反応速度解析を併せて考慮すると、La Merの核生成・成長モデルにおいて反応温度は核の生成速度及び成長速度の双方に影響を与えるのに対し、ガラスの溶解速度は核生成速度には大きな影響を与えず、主に核成長速度に影響を与えることが示唆された。 また、平成29年度ではこれと並行して銅含有ガラス粉末による銅系ナノ粒子の合成も試み、酸化銅ナノ粒子の合成に成功した。
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