研究課題/領域番号 |
15K17893
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
田中 真司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 触媒化学融合研究センター, 研究員 (20738380)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酸化反応 / アルコール / 置換活性 / 鉄触媒 |
研究実績の概要 |
平成27年度においては、過酸化水素を酸化剤とする酸化反応のための自己組織化型鉄触媒の開発を行った。アルカン類のヒドロキシ化やアミノ酸類を用いる不斉反応への展開を見据え、まずはアルコールの酸化反応をモデル反応とし、本研究で用いる自己組織化型鉄触媒における配位子の効果について詳しく調査を行った。 立体制御配位子として6-メチルピコリン酸とキナルジン酸、電子制御配位子として4-メトキシピコリン酸、4-メチルピコリン酸、4-クロロピコリン酸を用い、それぞれの組み合わせにおいて、酢酸鉄との自己組織化により発生する触媒のアルコールの酸化反応に対する活性を比較した。その結果、6-メチルピコリン酸と4-クロロピコリン酸の組み合わせで最も高い触媒活性を示すことがわかった。 次に、これらの配位子の組み合わせにおいて高い活性を示した理由を調査するために、自己組織化により発生している鉄錯体の合成、分析を行った。種々の鉄錯体について単離、単結晶X線構造解析に成功した。鉄-窒素間の結合距離を比較すると、6-メチルピコリン酸やキナルジン酸のような鉄周りに立体反発を生じる配位子を導入すると、そうでないものに比べて伸長していることがわかった。また、単離した錯体の電気化学測定を行うと、4-クロロピコリン酸を用いた場合に、鉄3+/2+の酸化還元電位が正にシフトしていることがわかった。このことから、高い触媒活性の発現のためには、立体反発による配位子の置換活性と、活性種と考えられる鉄の高原子価種の反応性の高さの両方が関与しているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究実施計画では、過酸化水素水を用いるアルカン類のヒドロキシ化、アミノ酸類を用いる不斉反応への展開を目指していたが、まずそれらの反応へ展開するための基礎的な検討を行った。その結果、自己組織化型鉄触媒に用いる配位子が触媒活性種の発生過程や反応性の高さに及ぼす影響について、興味深い知見を得ることができた。 従来研究されてきた酸化反応用鉄触媒は、低原子価状態の鉄を精密にデザインされた配位子により保護したものが多かった。一方、より取り扱い容易で実用的な鉄三価の錯体については、一般的に配位飽和であり、反応サイトが発生しくいため、触媒反応に用いられる例は少なかった。今回の研究成果において、鉄三価の錯体であっても立体反発を生じる配位子を最適な比率で組み合わせることにより配位子置換反応を促進し、良好な触媒活性を発現できることがわかった。この研究成果は、今後よりシンプルで実用的な鉄三価錯体を用いる触媒開発において重要な知見となると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
自己組織化によるシンプルかつ高活性な触媒発生法を今後さらに拡大する。過酸化水素による酸化に限ることなく、より安価な酸素を用いる酸化反応に好適な触媒を開発する。また、鉄に限ることなく、銅、マンガン、ニッケル、コバルトなど安価で実用性の高い金属を用いる触媒反応へと拡張する。 ターゲットとする反応は、芳香族ベンジル位の選択酸化、オレフィンのエポキシ化、二重結合の酸化的開裂などとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
特になし
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次年度使用額の使用計画 |
物品費、旅費等として平成28年度分と合わせて使用する。
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