研究課題/領域番号 |
15K17896
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
東 正信 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10711799)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 金属硫化物 / 可視光水分解 / 2段階水分解 / 光触媒 |
研究実績の概要 |
本研究では、太陽光と水を用いたクリーンな水素製造技術として期待される半導体光触媒を用いた水分解の飛躍的な高効率化を目的とし、窒素アニオンまたは硫黄アニオンを含む可視光応答型光触媒を用いた水分解系の構築を行った。 硫黄アニオンを含む光触媒材料として金属硫化物(硫化カドミウム:CdS)に着目した。金属硫化物は可視光吸収が可能であり、水分解に適してバンド構造を有しているものが多い。しかし、生成した正孔により自身が容易に分解してしまうため、水を酸化することは不可能であった。本研究では、金属硫化物光触媒を2段階水分解システムの水素生成系に適応することで、可視光水分解を試みた。様々な可逆な電子供与体からの水素生成反応を行った結果、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)6]4-)を用いた際にほぼ量論量の水素生成が確認された。また、緩衝溶液としてホウ酸緩衝溶液を用いることでpHの上昇に起因するプロトン還元活性の低下を抑制し、水素生成活性が顕著に向上することを見出した。同条件において、他の金属硫化物(ZnIn2S4、CdIn2S4)による水素生成活性はCdSと比較して明らかに低かった。詳細なキャラクタリゼーションを行ったところ、高い活性を示したCdS表面には、複合シアノ錯体(Mx[CdFe(CN)6])が他の硫化物より多く形成されており、これが水素生成反応に対して重要な役割を果たしていることが示唆された。適切な酸素生成系(CoOx/TaON光アノード)と組み合わせることで、可視光二段階水分解を実証した。この結果は、水の全分解に対して金属硫化物が利用可能であることを示し、金属酸化物や窒化物に限定されてきた可視光水分解用光触媒材料の選択肢を大きく広げるものと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで水の完全分解に利用できなかった硫化カドミウム光触媒を、フェロシアン化物イオン/フェリシアン化物イオンを電子伝達体とする2段階水分解システムに適応することで、水分解を実証することができた。また、複合シアノ錯体の形成が水素生成系として機能するためには、必須であることが示唆された。今後、この知見を基に、他の金属硫化物光触媒への応用展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、硫化カドミウム光触媒がフェロシアン化物イオン/フェリシアン化物イオンを電子伝達体とする2段階水分解システムの水素生成系として機能することを実証し、硫化カドミウム光触媒表面への複合シアノ錯体の形成が、この反応を進行させるために必要であることが示唆された。しかし、硫化カドミウムの吸収端は550nm程度であり、可視光を有効に利用できているとは言いがたく、また、複合シアノ錯体が有効であることはわかったが、その詳細はまだ明らかになっていない。H28年度では、固溶体型の金属硫化物をベースに用い、長波長化を目指す。また、固溶体の利点を利用し、価電子帯の位置を系統的に変化させ、複合シアノ錯体を修飾させた際のフェロシアン化物イオンの酸化反応の評価を光電気化学測定により行い、複合シアノ錯体と硫化物光触媒の価電子帯位置との相関について検討する。 窒素アニオンを含んだ光触媒材料として金属酸窒化物を用い、高性能な光アノードを調製する。これまで複合酸窒化物バリウムタンタル酸窒化物(BaTaO2N)に、異種金属イオンドーピングを行うことでキャリア密度を制御し、適切なキャリア密度に調整することで、光電極性能が向上することを見出している。タンタル系より長波長の光が利用可能なニオブ系酸窒化物(ANbO2N:A=Ca,Sr,Ba)は光電極材料として魅力的であるが、ニオブはタンタルより還元されやすいため、光電極として用いた場合、ドナー密度が高すぎるためその性能は低かった。そこでH28年度では、金属イオンドーピングをニオブ系酸窒化物に適応させ、キャリア密度を制御することで高性能化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、光触媒の調製条件の検討を主に行っていたため、物品費が比較的抑えられたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では、材料を効率良く合成し、そして評価していくための物品を購入し、研究を円滑に推進していく。
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