研究実績の概要 |
有機超伝導体の超伝導転移温度は10 K台に留まっている。また、熱電材料の実用化には無次元性能指数ZT > 1が目安とされる中、有機熱電材料ではZT = 0.42が最高値であり、新材料の開発が課題となっている。このような状況に鑑み、本研究では、低対称性分子に比べて研究例の少ない高対称性分子の特性に着目し、それを活用することにより高い超伝導転移温度を有する超伝導体を含む多様な有機導電体・磁性体の開発を目的として以下の研究を行った。 1.新規3回対称性分子の合成 2,5,8-Tris(trimethylstannyl)benzo[1,2-b:3,4-b':5,6-b"]trithiopheneと2-(4H-Thiopyran-4-ylidene)-4-bromo-1,3-dithiole (TPDT-Br)、または、4,5-Ethylenedioxy-4’-iodotetrathiafulvalene (EDO-TTF-I)をStilleカップリング反応を用いて結合させることにより、3枚羽根のプロペラ型ドナー分子TTPDT-BTT (1)、TEDO-BTT (2)を合成した。 2.分子1とTCNQとの電荷移動錯体の作製と物性評価 上述の分子1と7,7,8,8-Tetracyanoquinodimethane (TCNQ)を少量のアセトニトリルを加えながら乳鉢上で混合磨砕し、得られた黒色粉末をアセトニトリルで洗浄することにより電荷移動錯体を得た。元素分析、ラマン、および紫外-可視-赤外分光測定から、分子1の価数は+1価近傍であると推測した。また、加圧成型試料の導電性評価を行ったところ、半導体的挙動を示した。さらに、粉末試料の磁化率測定を行ったところ、その温度依存性はキュリー的成分と定数項の和からなる局在系の磁性を示した。また、理論的解析により、分子1が+1、あるいは+2価となった際には、電荷は1つ、あるいは2つのTPDT部位に局在化し、3回対称性が失われた状態が求められた。これらのことから、錯体中でドナー分子の価数は+1価近傍で、構造はC1対称で安定化しており、分子内で電荷が不均化していることが予測された。
|