研究課題/領域番号 |
15K17901
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 義明 京都大学, 理学研究科, 助教 (60402757)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子性導体 / 分子磁性 / 陽イオンラジカル塩 / ヨウ素結合 / 熱電特性 |
研究実績の概要 |
本研究では、有機超伝導体、有機熱電材料等を指向した多様な有機導電体・磁性体の開発を行っている。平成28年度は以下の研究を行った。 【1】平成27年度に、3枚羽根のプロペラ型ドナー分子TEDO-BTT (2)を合成したことを報告している。本年度は、3回対称性分子2の羽根部分であるEDO-TTF-Iの陽イオンラジカル塩を作製し、その物性評価を行った。 EDO-TTF-IとPF6、AsF6、SbF6、NO3、ペンタシアノプロペニド(C3(CN)5)陰イオンとの塩を定電流電解法により作製した。単結晶X線構造解析の結果、これらの塩は、組成がEDO-TTF-I分子 : 陰イオン= 2 : 1であり、EDO-TTF-I分子は2量化しながら積層しており、いわゆるβ'型と呼ばれる分子配列をとっていた。また、導入されたヨウ素の効果として、これらの塩において共通した構造を構築する上でヨウ素結合が重要な働きをしていることが分かった。導電性は半導体的挙動、磁化率は、室温付近で6.5-7.5×10-4 emu mol-1程度で、低温部で極大を持つ局在スピン系の挙動であった。さらに、ラマンスペクトルを測定したところ、低温までバンドの分裂は見られず、モット絶縁体であると結論付けた。 【2】本研究では、有機材料の構造的特徴と熱電特性との関係を明らかにし、有機熱電材料開発における指針の導出を目的としている。しかしながら、本研究が対象とする試料は、微小、かつ脆い有機結晶である。そのため、市販のカンタム・デザイン社PPMS EverCool IIの大きく、かつ堅い無機材料を想定した純正試料ホルダでの測定が困難であった。そこで今年度は、新たな試料ホルダの開発に着手し、自作した試料ホルダを評価した。現在のところ、試料の熱電特性を正確に評価するには至っていないが、試料ホルダの素材や構造をさらに検討し、熱電特性の評価法の確立を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3回対称性分子の羽根部分(EDO-TTF-I)のみを用いた陽イオンラジカル塩において、陰イオンの形状が大きく異なるにもかかわらず、EDO-TTF-I分子が同様の分子配列をとることが分かった。X線結晶構造解析の結果を検討し、EDO-TTF-I分子同士の間、EDO-TTF-I分子-陰イオンの間の相互作用から、ヨウ素結合が共通した構造を構築する上で重要な働きをしていることを明らかにしている。このことは、ヨウ素結合を用いた構造制御技術に関する重要な知見であり、本研究をさらに発展させる着想になった。 また、本研究を熱電材料開発へ展開する上で重要となる有機熱電材料の計測技術の確立へ向けて、新たに試料ホルダを開発し、市販装置を用いてデータを得つつある。市販装置を用いて、微小、かつ脆い有機材料の熱電特性を正しく評価できるようになれば、これまで一部の専門家が自作の装置でしか行えなかった有機熱電材料の熱電特性評価が、一般の研究者・技術者にも普及することになり、一気に有機熱電材料開発が進展する可能性がある。 以上のように、本研究の目的達成に向けて着実に前進していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き3回対称性分子を用いた電荷移動錯体、また、3回対称性分子の羽根部分のみを用いた電荷移動錯体の作製、およびその物性評価を行う。また、他の高対称性分子を用いた物質開発や理論的解析を進める。熱電材料開発への展開を確固たるものにするため、新たに試料ホルダを開発し、微小、かつ脆い有機材料の熱電特性評価技術を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画調書に記載した研究経費よりも実際の交付額が少なかったため、研究費を当初予定していた設備備品の購入や海外出張等に充当すると、研究を推進する上で必須の物品を購入するための経費が不足することが分かった。そこで計画を変更し、設備備品の購入や海外出張等をとりやめ、未使用分を次年度以降の物品の購入等に充当することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
主として研究を推進するための物品費、研究成果発表や研究打合せ等の旅費、理論的解析に使用する大型計算機の利用料、熱電特性評価装置利用料に使用する。
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