研究課題/領域番号 |
15K17904
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井戸田 直和 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (60451796)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 温度応答性高分子 / 層状化合物 / 表面開始ATRP / クリック反応 / 金属配位 / ナノシート |
研究実績の概要 |
今年度は、分離担体となる金属配位能を有する温度応答性層状ペロブスカイトの合成を検討した。H型層状ペロブスカイト構造を持つHLaNb2O7・xH2O (HLN)を合成し、層間表面における逐次的なアルコール交換反応(n-propanol→n-decanol)により、層間距離を拡張させた。このHLN層表面に原子移動ラジカル重合(ATRP)開始基を有するホスホン酸誘導体を修飾した後、表面開始ATRP法により N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)を重合させた。X線回折分析から、低濃度モノマー溶液を用いて調製した試料では,低角度領域に回折線 (d=4-6 nm)が検出された一方で、高濃度モノマー条件では低角度領域に回折線が見られず、積層構造の保持を確認できなかった。電子顕微鏡や原子間力顕微鏡による観察から、低濃度モノマー条件では積層状態、高濃度モノマー条件ではナノシート状に剥離していることが確認された。UV-vis分析を用いた温度変化による透過率測定から、34℃以上においてPNIPPA修飾HLNを分散させた水溶液の濁度上昇を観測した。この挙動は、HLN表面に固定化されたPNIPAAm鎖の温変化に伴う相転移に起因しており、HLNに温度応答特性を付与することに成功した。この試料を用いてHLN表面に修飾したPNIPAAm鎖末端への金属配位能の付与を検討した。表面開始ATRP後に残存するCl原子をアジ化ナトリウムによりアジド化させ、プロピオール酸とのクリック反応によりポリマー鎖末端のカルボキシル化を試みた。赤外吸収スペクトルより、N3伸縮由来の吸収帯を観測したことから、ポリマー鎖末端へのアジド基の導入を確認した。一方で、カルボキシル化した試料ではC=O伸縮由来の吸収帯の確認が困難であったことから、今後は他の分析機器による末端カルボキシル化の確認やクリック反応の条件検討が必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は分離担体となる金属配位能を有する温度応答性層状ペロブスカイトの合成を目標とした。最終的な末端カルボキシル化は確認できなかったが、温度応答性を有するPNIPPA修飾HLNや中間体であるアジド基を導入した試料の作製には成功しており、動的構造制に基づくタンパク質選択分離に向けて順調に試料調製が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
PNIPPA修飾HLNを用いたポリマー鎖の末端カルボキシル化は確認できなかった。改善点となるクリック反応の条件検討として、修飾したPNIPAAmの鎖長を短くすることによる末端カルボキシル化の促進、および反応に用いるCuイオンとカルボキシル基との配位による影響を除外するためにプロピオール酸エステルの利用を試みる。また、N-メチルグリシン残基を有するモノマーを用いたNIPAAmコポリマーをHLN表面に修飾する等の多面的な検討により、金属配位能を有する温度応答性層状ペロブスカイトの合成を進める。分離担体の調製が完了次第、温度変化によるヒスチジン残基を持つタンパク質の吸脱着実験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の達成目標である分離担体となる金属配位能を有する温度応答性層状ペロブスカイトの合成では、遷移金属イオンの添加に伴うコロイド形成を視野に入れて予算を計上していたが、中間体試料の調製が完了していないため次年度にその予算を使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度に予定していた分離担体試料の作製に関して、試薬・器具の購入費および大学所有の共通分析設備の使用料として計上する。次年度のタンパク質の吸脱着実験に関して、生化学試薬・器具の購入および設備使用料を主として計画している。また、学会参加費、ポスター等の印刷費、成果の論文投稿に必要となる成果投稿費として使用する予定である。
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