研究課題/領域番号 |
15K17905
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
眞弓 皓一 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (30733513)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高分子物性 / レオロジー / 破壊力学 / 超分子化学 |
研究実績の概要 |
H27年度は、可動な架橋点を有する環動ゲルのマクロな破壊特性を系統的に調べた。環動ゲルは、軸高分子と環状分子からなるネックレス状の複合体であるポリロタキサンの環状分子間を架橋することで作製される。まず、架橋密度の異なる環動ゲルの破壊エネルギーを実験的に定量した。短冊状の試験片の中央に切れ目を入れ、亀裂が進展する最中の応力歪み曲線から破壊エネルギーを見積もることができる。通常の固定架橋点ゲルでは架橋密度が増大するにつれて破壊エネルギーは減少してしまい、硬さ(初期弾性率)と伸長性は両立しないことが知られている。一方、環動ゲルでは破壊エネルギーは架橋密度に依存せずほぼ一定となり、可動架橋点の導入によって高弾性率かつ高伸長性を有する材料を実現可能であることが示された。次に、軸高分子の鎖長を様々に変えたポリロタキサンを用いて、軸高分子量の異なる環動ゲルの大変形・破壊試験を行った。まず、初期亀裂を入れていない試験片の一軸伸長試験の結果から、軸高分子鎖長の増大に伴い、環動ゲルの破断伸びは大きくなり、また大変形領域における応力の発散が抑制されることが分かった。さらに、亀裂進展試験を行ったところ、軸高分子鎖長の長い環動ゲルほど、亀裂が大きく開くまで進展が始まらず、より強靭であることが分かった。従来の固定架橋点ゲルの破壊エネルギーは架橋点間鎖長にのみ依存し、軸高分子鎖長には依らないことが知られている。環動ゲルでは、亀裂先端において可動架橋点がスライドし、最終的には軸高分子鎖長全体が伸びきったところで破壊が進行すると考えられる。環動ゲルにおけるスライドを考慮した分子論モデルを構築することで、破壊エネルギーの架橋密度・軸高分子量依存性を矛盾なく説明することに成功した。以上の結果から、環動ゲルの強靭化は、亀裂先端において軸高分子が可動架橋点をスライドすることで実現していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の成果により、環動ゲルの巨視的な破壊挙動について系統的な実験データを集積し、環動ゲルの破壊特性は従来の固定架橋点ゲルとは大きく異なっていることが明らかとなった。また、環動ゲルの力学・破壊特性は、軸高分子量や架橋密度などの構造パラメータによって大きく変化するが、高分子鎖のスライド可動距離を支配因子として考えることにより、実験データを説明できる物理的な描像を得た。以上の成果は、可動架橋点による高分子架橋体の強靭化を実現する上での分子設計を与えるものであり、研究は計画通り順調に進展しているといえる。また、次年度に予定している小角X線散乱法を用いたゲルの構造解析に関する予備的な検討を始めており、本格的な実験を始める準備は整っている。
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今後の研究の推進方策 |
環動ゲルの強靭性は、可動架橋点が高分子鎖上をスライドし、ネットワーク構造が変化することで生み出されている。今後は、変形下における環動ゲルの微視的な構造変化を、放射光X線などを用いた構造解析によって明らかにすることを目的とする。軸高分子量や架橋密度など様々な構造パラメータを有する環動ゲルと従来の化学ゲルを比較することで、架橋点の可動性がネットワーク構造変化に及ぼす影響を明らかにし、巨視的な力学特性を記述する分子論的理解の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
破壊試験は繰り返し測定による再現性の確認が必要であるが、効率的に研究が推進したことに伴い、若干の未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
順調に成果が挙がっており、次年度には新しく招待講演の依頼を受けたことなどから、次年度はより積極的に学会発表を行っていく必要があるため、当該年度の未使用額は学会発表に必要な旅費の追加分として使用する計画である。平成28年度の研究費は、学会発表・情報収集に必要な旅費・学会参加費に加えて、放射光施設でのX線散乱実験に伴う旅費、実験に用いる試薬など消耗品の購入に使用予定である。
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