研究課題
初年度に実施した環動ゲルの破壊試験から、環動ゲルの破壊靭性は架橋密度には依存せず、架橋点のスライド可能距離が支配因子であることが示唆された。当該年度は、伸長下における環動ゲルの微細構造変化を調べ、マクロな破壊靭性を生み出しているミクロな起源を明らかにすることを目的とした。環動ゲルの一軸伸長下における小角X線散乱(SAXS)測定を行い、延伸に平行方向のセクター平均によって得られた散乱関数を解析した。ゲルの散乱関数は溶液的な熱揺らぎに由来する成分と網目の不均一構造に由来する成分の足し合わせである。通常の固定架橋ゲルでは、不均一構造は固定架橋によって凍結されており、デバイ・ビュッケ型の散乱関数で表される。一方、環動ゲルの場合、未延伸、または延伸倍率が低い時には、不均一構造に由来する成分はオルンシュタイン・ゼルニケ型の散乱関数で表され、不均一構造が架橋点の可動性によって熱的に揺らいでいることが明らかとなった。延伸倍率が20%を越えると、延伸に伴って不均一成分はオルンシュタイン・ゼルニケ型からデバイ・ビュッケ型への変化し、架橋点の可動性が凍結されることが分かった。また、全体の散乱強度に対する不均一構造に起因する成分の割合を計算したところ、環動ゲルの場合、特に延伸倍率が小さい領域において、通常の固定架橋ゲルよりも不均一成分の比率が低く、より均一な網目構造を有していることが実証された。以上の結果は、環動ゲル内部における架橋点の可動性を裏付け、環動ゲルの強靭性の微視的な起源を示すものである。
3: やや遅れている
SAXS法による構造解析によってゲルの階層構造に関する定量的な情報を抽出する手法は確立でき、架橋点の可動性が網目構造に与える影響を明らかにすることができた。ただし、亀裂先端周辺における局所構造を観察するための実験系の整備に時間がかかっており、次年度も引き続き取り組む。一方、次年度予定している溶媒を含まない環動エラストマー材料の作製については、試料作製条件の検討は目途がたった。
今後は、亀裂先端における歪み分布を観察するための実験システム構築に引き続き取り組む。また、溶媒を含まない環動エラストマーについても、マクロな力学試験および微細構造解析を行い、架橋点の可動性によるゴム材料の強靭化メカニズムを明らかにする予定である。
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Polymer
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https://doi.org/10.1016/j.polymer.2017.02.090