昨年度までに、環動ゲルでは可動架橋点がスライドする距離に応じて、破壊靭性が向上することが明らかとなっていた。当該年度は、偏光高速度カメラを用いることで亀裂周辺における歪み分布の可視化を行った。試料としては、軸高分子上における環状分子の被覆率が25%、5%の環動ゲルを用意した。環状分子被覆率が5%と低い環動ゲルは、被覆率25%の環動ゲルに比べて、環状分子のスライド可能距離が長く、より高い破壊靭性を示す。2種類の環動ゲルについて、亀裂先端周辺における歪み分布を偏光高速度カメラによるリアルタイム計測を行ったところ、被覆率25%の環動ゲルでは亀裂先端において著しい応力集中が観察されたのに対して、被覆率5%の環動ゲルでは、亀裂周辺における歪み集中が緩和されていることが分かった。この亀裂周辺における応力緩和機構は、亀裂先端における可動架橋点のスライドによる応力分散を示唆している。 さらに、alpha-シクロデキストリン(CD)とポリエチレングリコール(PEG)からなるポリロタキサンのCDにポリ-epsilon-カプロラクトン(PCL)を側鎖として修飾することで、無溶媒条件でもCDが凝集することなく、柔軟な環動エラストマーを作製した。構成成分の電子密度を比較すると、CDの電子密度がPEG・PCLに比べて高いため、X線散乱ではエラストマー中における架橋点であるCDの構造を可視化することができる。延伸下における環動エラストマーの小角X線散乱測定を行ったところ、エラストマー内部の架橋点配置・網目構造は変形下においても均一であることが明らかとなった。その結果、環動エラストマーは理想ゴム弾性体としての力学特性を有し、同様の化学構造を有する固定架橋エラストマーよりも高い伸張性を示した。
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