研究課題/領域番号 |
15K17906
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
澤田 敏樹 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (20581078)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ソフトマテリアル / 生体高分子 / ハイドロゲル / バイオテクノロジー / 分子認識 |
研究実績の概要 |
繊維状ウイルス(ファージ)とゼラチンからなる液晶性ハイドロゲルを用い、抗体の放出の制御を目指した。末端にHAペプチドを提示したHAファージを用いた場合、HAペプチドと特異的に結合する抗HA抗体の放出が抑制されることを昨年度明らかにしているが、このメカニズムについて検討した。ハイドロゲルと同濃度のファージを含む緩衝液を用い、透析膜から放出(透析)されるファージの量を定量した。ハイドロゲルの場合はファージを用いた際には抗体がほとんど放出されなかったのに対し、溶液の場合はファージを用いても抗体の放出はわずかしか抑制されないことがわかった。偏光顕微鏡による構造解析の結果、ハイドロゲル中ではファージは規則的に液晶配向しているのに対し、溶液中では無配向であった。すなわち、液晶配向に伴うペプチドの見かけの濃度の上昇に伴い、抗体とペプチドとの見かけの結合定数が上昇するためと推察され、ハイドロゲル内でのファージの液晶配向が分子放出の抑制ならびに制御に重要であることを見出した。 同一のハイドロゲルからの抗HA抗体と抗FLAG抗体の放出を制御することを目指し、両者を様々な濃度で混合したハイドロゲルを調製した。ファージの配向はその濃度に依存することが知られているため、ペプチドをもたない野生型ファージを用い、トータルのファージ濃度をそれぞれ統一して調製した。それぞれの抗体の放出挙動は対応するファージの濃度のみに依存することがわかり、互いに干渉することなく放出されることが明らかとなった。この現象は他の組合せでも一般に起こることがわかり、生体分子が示す特異的な分子認識能を利用することで複数の分子の放出を緻密に制御できるハイドロゲルがファージから構築できることを明らかにした。 さらに様々な低分子化合物の放出も検討しており、ファージとの静電的な相互作用が放出抑制に効果的である可能性を見出した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
繊維状ウイルスの遺伝子工学技術を利用した分子認識能をもつ液晶性ハイドロゲルを構築でき、その放出制御のメカニズムを明らかにすることができた。また、ファージ末端で起こる分子認識が、他の分子と組み合わせても干渉すること無く効果的に利用できることを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
低分子化合物の放出も制御できる可能性を見出したため、ファージとの相互作用を制御することでより厳密な放出の制御を目指す。分子サイズや特性の異なる低分子化合物を用い、放出制御に関する知見を獲得した後に、分子認識や液晶性を利用した放出制御を検討することで、ファージハイドロゲルによる分子放出の適用可能性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
繊維状ウイルスを含む液晶性ハイドロゲルからの薬剤徐放を制御する際に、当初の想定よりもシンプルな構成要素で達成することができた。そのため、予定よりも試薬の消費量が少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
より研究を発展的に展開するため、分子量のより小さな薬剤モデルの放出を目指し、薬剤モデル分子やリガンドを購入し、本系の有用性を明らかにする予定である。
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