分子の放出を制御できるハイドロゲルをウイルスから構築することを目指し、繊維状ウイルス(ファージ)と物理架橋してゲル形成する生体高分子であるゼラチンを混合した液晶性ハイドロゲルを利用した。モデル薬剤には様々な低分子色素を用い、ファージハイドロゲルから放出される化合物を吸収スペクトル測定を基に定量的に評価した。その結果、本実験で使用した分子量が2000以下の化合物の場合にはいずれの化合物であっても、カチオン性の化合物がアニオン性の化合物よりも遅く放出されることがわかった。これは、ファージ表層は負に帯電していることが知られており、ファージ表層との相互作用に基づいて放出が制御されることがわかった。この際、化合物の分子量や疎水性などによる放出挙動の大きな変化は見られなかった。ファージ表層のカルボキシ基に対して、アミノ基をもつ化合物を反応させて表層の電荷をより中性にしたファージを用いてハイドロゲルを調製し、同様に実験した結果、確かにアニオン性化合物の放出が促進され、またカチオン性化合物の放出が抑制されたことから、静電相互作用を主たる駆動力として放出が制御されることがわかった。 一方で、ファージ表層のカルボキシ基を介して光応答性分子を導入し、ファージ表層の疎水性を光により変調できるファージを新たに調製して同様にゲルを調製し、比較的疎水性の高い抗ガン剤であるドキソルビシンの放出制御を検討した。紫外光照射に応答して繊維状ウイルスの液晶構造が変化し、表層に導入した光応答性分子が確かに機能していることがわかった。しかしながら光に応答した疎水性変化がわずかであるためと推察されるが、ドキソルビシンの放出挙動はわずかな変化しか見られなかった。
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