研究課題/領域番号 |
15K17917
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小澤 隆弘 大阪大学, 接合科学研究所, 助教 (40734158)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水蒸気 / 接合 / 多孔体 / 二次電池 / 粒成長 / 焼結 |
研究実績の概要 |
本年度は,前駆体粒子からのマンガン酸リチウムの固相合成,熱分解反応による多孔質酸化マンガン粒子の作製,チタニア球状粒子の焼結を主要課題として研究を推進した。 球状炭酸マンガンの表面に水酸化リチウムを析出させた前駆体から,リチウムイオン電池の正極材料であるマンガン酸リチウムを合成した。空気中での焼成では,炭酸マンガンの熱分解に伴い中空の生成物が得られた。一方,水蒸気中での焼成では,熱分解反応とリチウム源との固相反応が低温から進行したことで,球状二次粒子の表面および内部で均質に粒成長が進行した。その結果,結晶面が発達した粗粒なマンガン酸リチウム粒子が合成できた。粒子内部の細孔構造は窒素吸着法と水銀圧入法により分析した。水蒸気雰囲気下では粒子間接合が促進され,径の大きな気孔を含む二次粒子が低温で作製された。また,焼成条件を検討した結果,添加剤を用いることなく,水蒸気中での加熱のみによって粒子形態が制御できる可能性を示すことができた。以上の研究成果を基に,高電位正極材料として期待されるニッケルマンガン酸リチウムの固相合成へ展開した。水蒸気雰囲気下での粒成長促進を利用して,充放電時の電解液の劣化反応を抑制した粒子の作製に成功した。 さらに,球状炭酸マンガンの熱分解挙動を詳細に調査したところ,両雰囲気下で生成される酸化マンガンの粒子形態が大きく異なることを見出した。水蒸気雰囲気下では,開気孔からなる多孔質球状酸化マンガン粒子が作製できた。 一方,水蒸気アシスト接合を基盤技術として確立するため,チタニアをモデル材料にその焼結挙動を調査した。加水分解反応により調製した球状アナターゼ粒子をルチル型へ変換した。これを原料粉体として直径10mmの成形体を作製し,大気中および水蒸気中で焼結をおこなった。水蒸気中で得られた焼結体は空気中に比べ粒成長が進行し,焼結体の気孔率が減少することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要に示した通り,水蒸気雰囲気下でのリチウムイオン電池用正極活物質の固相合成や炭酸塩の熱分解挙動の解析,酸化物の焼結をおこない,一定の成果を得ることができた。そのため,研究はおおむね順調に進展したといえる。特に,多孔質球状酸化マンガンの作製においては,当初計画にはなかった研究課題ではあったものの,粒子の形態や微構造の観点から,リチウムイオン電池の負極材料としての応用のみならず,微粒子フィルター材料としての応用が十分期待でき,今後発展する見込みがある。正極活物質の合成では,水蒸気がアシストする粒成長挙動を生かし,粒子設計に基づいた高性能な正極粒子の作製に展開することができ,大きな進展があった。一方,酸化チタンの焼結挙動の解析では,より低温での初期焼結領域を検討する必要があると考えられ,そのための具体的な実験の着手を進めた。 昨年度得られた成果をまとめ,学会発表や国際誌への投稿を進めた。平成28年9月に開催された国内学会での口頭発表では,優秀賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
水蒸気雰囲気下での粒子合成については一定程度の成果が得られていることから,合成した粉体から電極を作製し,リチウムイオン電池としての電気化学的な評価を進める。高電位正極材料としてのニッケルマンガン酸リチウムの安定性向上は次世代の高出力リチウムイオン電池の開発において需要な課題である。本研究では,電解液の酸化分解を抑制した粒子構造を設計し,水蒸気雰囲気下での固相反応による低温合成を目指す。 多孔質球状酸化マンガンにおいては,その特異な細孔構造を生かし,微粒子を捕捉するフィルター材料への応用を探索する。液中あるいは気中に分散したナノサイズの粒子を容易に捕捉できるような粒子を作製し,その細孔構造評価や水蒸気雰囲気下での粒子形成機構を検討する。 水蒸気アシスト接合を基盤技術として確立するためのチタニアを用いたモデル実験では,粒子間でのネック形成挙動を観察する。二粒子間での表面拡散や体積拡散を観察し,空気中焼成との差異を明らかにする。
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