本研究では,焼成反応場に導入した水蒸気が酸化物界面で水酸基を形成し,イオンの拡散を促進させることで異種粒子間接合が低温化することを実証するとともに,材料設計の新たなアプローチとして展開させることを目的とする。特に,リチウムイオン二次電池(LIBs)の高安定化,高性能化に資する多孔質電極の創製に対し,水蒸気がアシストする異種粒子間接合を利用する。 LIBsの高電位正極活物質として注目されているLiNi0.5Mn1.5O4(LNMO)の固相合成を大気中及び水蒸気中で行うとともに,その電池特性を評価した。水蒸気雰囲気下では,LNMO粒子同士の接合に伴う粒成長が低温から進行し,空気中での焼成に比べ,粒子径の大きなLNMO粉体を得ることができた。LNMOの高電位作動(4.7 V vs. Li+/Li)ゆえに,有機電解液の酸化分解による電池のサイクル劣化が指摘されているが,本手法による比表面積の小さなLNMO粒子の設計により,電池のサイクル特性やレート特性の向上が認められた。また,水蒸気がアシストする粒成長によって加熱環境下で粒子形態を制御できる可能性が示された。 さらに,負極活物質として利用可能なMn3O4の多孔質粒子の作製を,球状MnCO3の水蒸気雰囲気下での熱分解により試みた。その結果,Mn3O4の生成温度領域が水蒸気の導入によって大幅に低下するとともに,50 nm以上のマクロ孔を有する球状多孔質粒子をワンステップで得ることに成功した。本手法で得られた粒子表面は一次粒子がネットワーク上に成長しており,さらに粒子内部はランダムに成長した粒子壁によって迷路状に細孔が構築された特異な微構造を有する多孔質粒子であった。本粒子の微構造を活かした電極作製への展開が期待できる成果を得た。
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