研究課題/領域番号 |
15K17921
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研究機関 | 株式会社豊田中央研究所 |
研究代表者 |
山中 健一 株式会社豊田中央研究所, 稲垣特別研究室, 研究員 (40418455)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光触媒 / 酸化タンタル / 窒化 / フェムト秒 / 過渡吸収 / 拡散反射 |
研究実績の概要 |
エネルギー・環境問題の解決に向けて,可視光応答光触媒を用いた水分解の研究が盛んである.酸化タンタル(Ta2O5)のOをNに置換した半導体光触媒(NドープTa2O5,TaON,Ta3N5)はそのひとつであるが,合成過程で生じた欠陥サイトが触媒活性を低減させてしまうことが課題であった.そこで本研究では,フェムト秒拡散反射分光法で光触媒粉末の過渡吸収を測定し,可視光化のための窒化処理が光励起キャリア初期過程に与える影響を解明することを目的とした.本年度はNドープTa2O5粉末(N-Ta2O5)の測定を行い,以下の知見を得た. 1、励起波長295 nmの場合(Ta2O5のバンド間遷移),1 ps後にブロードな吸収が現れた(観測波長420-780 nm).過渡吸収信号はその後,10 psの時定数で2割が,600 psの時定数でさらに2割が減衰した.Nドープ前のTa2O5ではこの減衰過程は観測されなかったことから,信号減衰の起源はNドープにより導入された酸素欠陥によるトラップ過程であると考えられる. 2、励起波長355 nmの場合(N2pから伝導帯への遷移)も同様にブロードな吸収が観測され,信号はその後,時定数10 psで3割が,時定数300 psで2割が減衰した.今後,さらに長波長励起での測定を行い,スペクトルを帰属するとともに信号減衰が295 nm励起と比較して速くなった理由を調べる. 3、光パラメトリック増幅器からのSignal光と基本波の和周波を発生させる波長変換機構を構築した.これにより,475-530 nmの安定したフェムト秒パルスが得られるようになった.今後,励起波長依存性の検討に利用する. 4、N-Ta2O5,TaON,Ta3N5の合成条件を検討した.各試料とも同じ原料(Ta2O5)から合成できる見込みであり,光励起キャリアのトラップ過程の比較が可能になると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,N-Ta2O5,TaON,Ta3N5を題材とし,可視光化のための窒化処理が光励起キャリアの初期過程に与える影響を調べ,可視光応答光触媒の反応機構の一端を解明することである.今年度は試料の合成,波長変換機構の構築,N-Ta2O5の測定(励起光強度依存性と励起波長依存性を含む)を行う計画であった.フェムト秒レーザーが故障し,その修理でスケジュールがタイトになったが,予定していた実験は概ね実施できた.一方,予定していた学会発表を行うことができなかった.
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今後の研究の推進方策 |
1、引き続き可視光励起でのN-Ta2O5の測定を行う.Ta2O5のバンド間遷移とN2p不純物準位からの伝導帯への遷移でキャリア挙動が異なるか調べる.更に吸収端励起と比較し,キャリア挙動が余剰エネルギーに依存するか調べる. 2、TaONとTa3N5を合成し,フェムト秒拡散反射の測定を行う.キャリア初期過程が励起波長に依存するのではないかと考えており,確かめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
フェムト秒レーザーが故障し,その修理でスケジュールがタイトになった.そのため,予定していた学会発表を行うことができなかったことが主な理由である.実験に必要な消耗品の購入も計画より少なくなった.
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次年度使用額の使用計画 |
フェムト秒拡散反射分光測定に必要な消耗品の購入および学会発表の費用に充てる.当初の計画よりも多くの測定と学会発表を行う予定である.
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