エネルギー・環境問題の解決に向けて、可視光応答光触媒を用いた水分解の研究が盛んである。酸化タンタル(Ta2O5)のOをNに置換した半導体光触媒(NドープTa2O5、TaON、Ta3N5)はそのひとつであるが、合成過程で生じた欠陥サイトが触媒活性を低減させてしまうことが課題であった。そこで本研究では、フェムト秒拡散反射分光法で光触媒粉末の過渡吸収を測定し、可視光応答化のための窒化処理が光励起キャリア初期過程に与える影響を解明することを目的とした。昨年度は初年度に構築した測定装置を用い、主にNドープTa2O5の測定を実施した。本年度は窒化タンタル(Ta3N5)を中心に測定を行い、以下の知見を得た。 1、石英セルにTa3N5粉末を詰めた状態ではTa3N5によるプローブ光の吸収が大きいため、高感度測定が難しいことが分かった。そこで、硫酸バリウムで5wt%に希釈したところ、十分なSN比のスペクトルを得ることができた。 2、光励起して1 ps後のスペクトルは、490-570 nmに負の信号を、570-1000 nmに正の信号を示した。Ta2O5およびNドープTa2O5との比較から、トラップ電子およびトラップ正孔の吸収に、ブリーチ信号(基底状態の吸収減少)を加えたものとして説明できた。 3、励起波長を295 nm、350 nm、445 nm、585 nmとし、結果を比較した。1 ps後のスペクトル形状は概ね一致した。一方、長波長の光で励起するほど過渡吸収信号の減衰が遅く、キャリア寿命が長いことが示唆された。このような長寿命キャリアが光触媒活性の発現に寄与した可能性が考えられる。
|