平成28年度は、電気化学発光セル (LEC) への印加電圧に対する発光ポリマー・正負イオンの分布の変化を27年度に確立した観察技術を用いて観察し、電流値・発光量と対応づけてLEC発光のメカニズムを解明することを目標に研究を行った。27年度に走査型透過X線顕微鏡 (STXM) を用いて得られた負イオン分布の変化は非常に微小なものであったため、膜厚やイオン液体・発光ポリマー比といった試料条件を変えて再現実験を重点的に行った。また、この過程で28年度のもうひとつの目標であったLECの劣化に関する測定も行うことができた。 長時間、大電流で発光させることによりLECは劣化する。劣化したLECのイオン液体の負イオンの空間分布を観察した結果、劣化前と大きく異なっていることを見出した。このことは、LECの劣化にはイオン液体と発光ポリマーの相分離が関連していることを示唆している。同時に、本研究で用いている手法が確かにイオンの分布を捉えていることも確かめられたと言える。 本研究で再現実験を重ねた負イオンの移動量はわずかであるが、これまで考えられていた自己組織PN接合の形成というモデルと矛盾しない。しかし、定量的にはこれまでの単純なモデルを再検討する必要があることが示された。研究実施年度内に具体的なLEC発光のモデルの構築を完了するまでには至らなかったが、そのために必要な観察データは本研究で得ることができた。定量的解析を今後も継続することで、これまでより定量的なLEC発光のモデルを提唱する計画である。
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