平成28年度は前年度構築した温度可変環境を用いて放射光施設におけるその場X線吸収微細構造測定(XAFS)およびその場X線回折測定(XRD)を行ったほか,電気化学インピーダンス(EIS)測定データ解析による劣化解析を行い,温度環境と電流密度がリチウムイオン電池電極反応およびその劣化に及ぼす影響を検討した.その場XAFS測定では,三元系(LixNi1/3Mn1/3Co1/3O2)正極とグラファイト負極からなる市販リチウムイオン電池から取り出した正負極を用いたラミネートセルを作製し,25℃および0℃、充放電レートは1/3Cおよび1Cで測定を行った.その結果、いずれの条件においてもX線吸収端近傍構造(XANES)領域においてNiのスペクトル変化が主であった.さらに,充電時と放電時でNi K端ピークシフトに履歴が見られ,電極内に反応分布が生じていることが示唆された.その場XRD測定では,1/3C充電に伴う正極および負極の結晶構造変化を追跡し,0℃充電時において負極の002面のピーク変化の傾向が25℃と異なる傾向が見られた.EIS測定データ解析の結果、低温または高Cレートでのサイクルによって正極の電荷移動抵抗成分が顕著に増大することが分かり,電荷移動抵抗成分増大が電池劣化の原因である可能性が示唆された.これらの結果から,低温や高Cレートでの充放電時には正極の電荷移動抵抗成分の影響によりその場XAFS測定で見られたように粒子内に反応分布が生じることで活物質に対する負荷が増大し,正極の電荷移動抵抗がより増大する劣化が生じたと考えられる.以上のように,低温や高Cレートでの電池劣化を抑制するためには正極電荷移動抵抗の低減が重要であり,その解析には本研究におけるその場測定技術が重要であるといえる.
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