研究課題/領域番号 |
15K17929
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山田 悟史 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90730169)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 骨組織 / 強度 / 海綿骨 / 骨梁 |
研究実績の概要 |
骨粗鬆症では、海綿骨の強度低下による骨折が重要な問題となる。海綿骨の力学的特性の評価や制御には、骨密度の他に、海綿骨を構成する骨梁単体の力学的特性や骨代謝と関わる構造的要因を加味する必要がある。そこで本研究では、骨梁の力学的特性を明らかにし、マイクロ・ナノ構造が力学的特性に及ぼす影響を明らかにするため、(1)骨梁単体に特化した力学的特性計測システムの開発および計測、(2)断面観察およびX線回折による骨梁のマイクロ・ナノ構造特性計測を目的とした。2年計画のうち初年度に当たる今年度は、(1)骨梁単体に特化した力学的特性計測システムを開発し、以下の成果を得た。1)骨梁の力学的特性の計測方法として、Micro-cantilever Bending法を提案した。長さ3mmの骨梁の引張試験により得られた知見をもとに、標準的な大きさである直径100-200μm、長さ1mm程度の骨梁を計測可能とする片持梁曲げ試験機を作製した。アクチュエータにより負荷治具を介して骨梁先端に曲げ負荷を与え、微小荷重ロードセルにより荷重を、光学顕微鏡により作用点の確認およびたわみ量の計測を可能とする機構とした。2)本システムを用いて、ウシ大腿骨海綿骨から採取した骨梁試験片を対象に、骨梁単体の弾性率を計測した。測定の分解能や再現性を検証した。また、μCT撮影により得られる骨梁形状を用いた有限要素解析と比較し、弾性率計算の精度を検証した。3)計測結果より、ウシ大腿骨骨梁単体の弾性率は皮質骨に比べて小さかった。また、骨梁の弾性率は、海綿骨内部での骨梁の配向方向とは相関が認められなかった。また、(2)断面観察およびX線回折を用いた骨梁のマイクロ・ナノ構造特性計測のための準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初研究計画では、初年度に当たる今年度は、骨梁に特化した力学的特性の計測システムを開発し、ウシ海綿骨骨梁の力学的特性を計測することとしていた。研究実績の概要に記載した通り、骨梁に特化した力学的特性の計測方法としてMicro-cantilever Bending法を提案し、標準的な大きさである直径100-200μm、長さ1mm程度の骨梁を対象とした片持梁曲げ試験機を作製した。ウシ大腿骨から採取した骨梁試験片の弾性率を計測し、骨梁単体の弾性率が皮質骨に比べて小さいこと、また、骨梁配向方向と相関が認められなかったことを示した。得られた成果の一部は、国際会議および国内学会で公表した。また論文を投稿し、国際会議発表の申し込みを行った。また、次年度実施予定の骨梁のマイクロ・ナノ構造特性計測のための準備を行った。以上の通り、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である次年度は、骨梁の力学的特性を決定するマイクロ・ナノ構造特性の解明のため、(2)骨梁のマイクロ・ナノ構造特性計測を実施する。骨代謝と関わる骨のマイクロ・ナノ構造特性に着目する。ナノ構造特性として、X線回折法を用いて骨梁内のハイドロキシアパタイト(HAp)結晶の配向性を調査する。骨梁にX線を照射し、X線2次元検出器イメージングプレート(IP)により回折X線パターンを計測する。得られるIP画像より、HAp結晶c軸の配向方向、骨梁長軸方向への配向度を評価する。照射X線エネルギ、照射時間等、最適な測定条件を検討する。骨梁内のHAp結晶配向性を調査し、皮質骨との違いを明らかにする。また、ミネラル含有量を調査する。次に、マイクロ構造特性として、光学顕微鏡により観察されるラメラ等の特徴的な構造に着目する。以上より、骨梁単体と皮質骨の力学的特性、マイクロ・ナノ構造特性の違いを整理し、骨梁の力学的特性に及ぼすマイクロ・ナノ構造特性の影響を整理する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、少ない骨試料から多くの骨梁試験片が採取できたため試験片購入費が節約できた。また消耗品費を節約したため、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度である次年度は、今年度開発した計測システムを用いて骨梁の力学的特性計測を継続して実施し、骨梁のマイクロ・ナノ構造特性計測の結果と比較することで、骨梁の力学的特性を決定するマイクロ・ナノ構造特性の解明に取り組む。そのため、試料購入費および消耗品費を節約して発生した当該年度の未使用額は、次年度の試料購入費および試料作製・保存のための消耗品費に充当する計画である。
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