最終年度は、フィルムを液面から引き上げることで形成される立体構造について、ポテンシャルエネルギーが最小となる条件から解析解を導出した。これにより、立体構造を形成するために必要なフィルム厚さ、フィルム長さの条件を決めることができた。実験結果と比較するため、様々な厚さ、長さのポリエチレンフィルム、シリコンゴムフィルムを水面から引き上げ、形成の可否を整理したところ、解析解から導かれた形成条件とよく一致することが示された。 次に、提案している立体構造形成法を分子スケールへと展開していくため、分子動力学シミュレーションによって、単層グラフェンシートを液面から引き上げる計算を行った。グラフェンシートと水分子の間のポテンシャルを決めるパラメータによって接触角を変化させ、引き上げた後に形成される円筒構造の違いについて考察した。結果、接触角が90°よりも大きいときには液体からはく離してしまうが、接触角が小さいときには円筒構造が形成されることを確認した。しかし、形成された円筒構造は解析解よりも遥かに小さい寸法であったことから、単層グラフェンシートからの立体構造形成には分子スケール特有の現象を考慮に入れ、理論の修正が必要であることが明らかとなった。 研究期間全体を通じて、表面エネルギーの効果をポテンシャルエネルギーに加えることで、固体表面のぬれ性に伴う構造体の変形現象を捉えることに成功した。これにより、構造体を連続体と見なせるマイクロスケールの範囲において、ぬれ性を利用した独創的な立体構造形成法を提案することができた。今後は、分子スケールにまで理論を拡張し、連続体の枠組みを超えた力学理論の構築へと繋げていきたい。
|