最終年度は、単結晶シリコンのナノ・マイクロ構造体の塑性変形に及ぼす水素の影響について評価した。構造体はマイクロニードルへの応用を想定した柱状のピラー構造として、ナノ・マイクロサイズのシリコンピラーの作製方法について検討を行った。シリコンピラーへの水素の導入は、前年度に習い水素プラズマを用いた。ピラーの塑性変形は、走査型電子顕微鏡内に設置したナノインデンターの圧縮試験により評価した。また繰返し負荷を与えたシリコンの結晶状態を透過型電子顕微鏡や電子線誘起電流法による観察手法で評価し、シリコンへの負荷と結晶すべりとの関係について調査した。以下に研究成果を示す。 1) 直径500nmおよび1μmサイズのシリコンピラーの作製を目標として、リソグラフィと反応性イオンエッチング(RIE)による方法および集束イオンビーム(FIB)加工を試みた。RIE加工では垂直性をもったナノ・マイクロサイズのピラーの製作は困難であった。一方、FIB加工において目標サイズのピラーの製作方法を確立した。 2) FIB加工で製作したシリコンピラーに水素プラズマ処理を施し、フラットパンチ圧子を装着したナノインデンターを用いてピラーの圧縮試験を行った。水素プラズマ処理したピラーは、未処理のピラーと比較して小さな荷重で降伏しやすい、すなわち水素によりシリコンの転位の移動障壁のエネルギーが下がる結果が得られた。 3) 湿潤環境下で繰返し負荷を与えたシリコンの結晶状態を電子線誘起電流法(EBIC)および透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、EBICでは繰返し負荷に伴う欠陥の成長過程の可視化画像、TEMでは結晶のすべりの痕跡の観察結果が得られたことから、特定の環境と力学的条件下がシリコンの塑性変形に寄与する知見が得られた。
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