平成29年度は,鉄鋼材料の力学特性に影響を与える侵入型元素にも着目し解析を行った.数種の添加元素が転位芯近傍に同時に存在する場合のらせん転位との相互作用について,第一原理計算に基づき検討を実施した.鉄鋼材料には種々の添加元素が同時存在していることから,より現実に近い状況での評価を実施することができた.また電子・原子論解析から得られた添加元素の影響に関する知見を,メゾ・マクロスケールの力学特性へと受け渡すモデルについて,複数の転位間の相互作用を扱うモデルの検討を実施した. 研究期間全体を通じて,電子論に基づく第一原理計算により体心立方格子構造をもつ鉄中のらせん転位と種々の添加元素の相互作用を系統的に評価した.これによって転位の第一原理計算に基づき鉄鋼材料の固溶強化を議論する枠組みを構築した.体心立方格子構造をもつ鉄の固溶強化に関する系統的な電子・原子論的知見,および相互作用の起源に関する情報を獲得することができた.さらには第一原理計算から得られた知見に基づき,添加元素が降伏強度などの巨視的な力学特性に与える影響を予測する理論モデル,あるいはメゾスケールモデルの基盤構築を行った.このメゾスケールモデルは転位運動を粗視化することで,長い時間スケールでの転位ダイナミクスを扱うものである.これらの電子・原子論解析,および理論モデル,メゾスケールモデルによる成果は,添加元素による鉄鋼材料の強化を検討するうえで基礎的知見になると考える.
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