本研究の目的は, DHH上翅構造に基づき,強度と軽量性を両立した複合材料の設計指針を構築,それに基づく複合材料を開発することである.最終年度も含め,これまでに得られた知見は以下のとおりである. (1)DHH上翅構造の断面観察を光学顕微鏡により行った.その結果,上翅の断面構造は3層構成(最表面層(厚層),キチン質の繊維層,最表面層(薄層))であることを確認した.さらに,キチン質の繊維は複数の角度に配向し,積層していることがわかった. (2)DHH上翅の引張試験および損傷進展挙動のその場観察を行った.正中線に対して0度,45度で切り出した短冊試験片を用いた.その結果,上翅破面の様相は繊維の引抜けが生じており,繊維強化複合材料の破面の様相と酷似していることがわかった. (3)上翅構造を模擬した数値解析モデルの作成およびそれを用いた損傷力学に基づく損傷進展解析を実施した.数値解析モデルの試作として,既往研究におけるカブトムシ上翅構造の試験片採取角度0°,45°,90°,135°の積層構成に基づき4種類の数値解析モデルを作成した.その結果,解析結果と既往研究の正規化引張強度と比較したところ,その4種の傾向が概ね一致した. (4)強度,剛性,軽量性を両立させた複合材料を開発することを念頭に,DHH上翅を構成するチキン質に類似した物性を有すると予測されるセルロースナノファイバー(CNF)を用いた複合材料を作製し,その引張試験を実施した.その結果,荷重-変位線図は弾性挙動を示した後,屈曲部が現れ,非線形挙動を示した.CNF添加量を変化(2.5~30wt.%)させて引張試験を行い,縦弾性率の変化を評価したところ,CNF含有量が増加するにつれ縦弾性率も増加した.CNF添加量が20 wt.%以下である場合,縦弾性率は穏やかに増加するが,30 wt.%では縦弾性率が急激に増加する傾向が確認された.
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