研究課題/領域番号 |
15K17944
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
岸本 喜直 東京都市大学, 工学部, 講師 (20581789)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 機械材料・材料力学 / 連続体力学 / マルチフィジックス / 計算力学 / 逆問題 / 積層構造 / 薄板構造 / 二次電池 |
研究実績の概要 |
電場・伝熱・構造に関する解析モデルの妥当性を検証するため,試験片を加熱しながら,ひずみおよび温度を測定するための実験装置を製作した.リチウムイオン電池の負極板を参考にして,母材を銅平板とし,その表面に電極材となるカーボンを塗布して試験片を製作した.試験片を実験装置に取り付けて加熱し,試験片表面の温度と変形量を,試験片に貼付した熱電対とひずみゲージでそれぞれ測定した.また,実験中の試験片の様相を目視で観察した.実験結果から以下の知見が得られた.試験片表面において温度分布がほぼ一様に上昇したことから,伝熱解析に際しては,熱伝達率を位置によらずほぼ一定値と考えてよいと判断できた.目視による観察より,温度上昇に伴って,試験片には母材と電極材の線膨張係数の違いに起因すると推察される熱変形が生じたことを確認した.このときの試験片の変形形状は,本解析システムで見積もった試験片の変形形状の傾向とよく一致した.一方で,ひずみゲージに生じた熱ひずみの影響で,試験片に生じたひずみをひずみゲージで測定することは困難であった.以上を踏まえて,伝熱解析を除く,電場解析と構造解析に限定して検証実験を追加で行い,以下の成果が得られた.電場解析に関しては,二枚の平板を接合した試験片に電流を印加したときの試験片周囲に生じた磁場を逆解析し,平板間の電流密度分布を精度良く推定できた.構造解析に関しては,平板と円筒コア材からなるサンドイッチ板に対して静的押込試験を行って平板の変形形状から支持反力を,ボルトで接合した二枚の平板に対して打撃試験を行って固有振動数から平板間の接触面剛性をそれぞれ推定できた.以上より,本解析システムの課題は,試験片を加熱したときに母材と電極材の間に生じる支持反力を,測定が困難なひずみからではなく,比較的測定が容易であると考えられる変形形状から推定できるかを調べることにあると結論づけられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書中,平成28年度の研究実施計画に記載された実験装置およびリチウムイオン電池の電極板を参考にした試験片の製作,試験片表面の温度と変形量の測定を実施した.実際の試験片の変形形状は本解析システムで見積もった変形形状の傾向とよく一致した.界面の諸係数の同定について,電場解析では電池周囲の磁場から逆解析により見積もれること,伝熱解析では熱伝達率を位置によらず一様とする単純な解析モデルで十分であることがわかった.構造解析では予備的に行った実験から変形形状から支持反力を,固有振動数から接触面剛性をそれぞれ推定できる可能性のあることがわかり,電極板に対して応用する際の課題を整理できた.なお,本解析システムにおいて,計算速度や計算精度に課題は生じなかった.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度までの研究結果から,実際の電池電極板を解析するにあたって,本解析システムの残りの課題が構造解析にあると結論づけられた.平成29年度は,試験片を加熱したときに母材と電極材の間に生じる支持反力を,測定が困難なひずみからではなく,比較的測定が容易であると考えられる変形形状から推定できるかを調べる.また,支持反力の推定精度を検証するために,母材である銅平板と,電極材であるカーボン膜をそれぞれ単独で用いて,同様の実験を行う.平成28年度に行った検証実験おいて,製作した試験片の曲げ剛性が小さかったので,自重によるたわみのデータも活用する.加えて,母材を材料定数が異なり,かつリチウムイオン電池の正極板の母材にも用いられているアルミ平板に変えた試験片も製作し,同様の実験を行う.なお,すでにリチウムイオン電池の負極板を対象とした実験と解析を行うことができたので,当初計画していた鉛蓄電池の解析は行わず,リチウムイオン電池を対象とした実験と解析に関して,信頼性を確立するためのデータ収集に専念する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定のとおり,検証実験の実験装置および試験片,研究成果の発表(論文掲載料,旅費,学会参加登録費)に助成金を使用した.残高が生じたのは消費税等による微小な差分によるものである.
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次年度使用額の使用計画 |
前述の今後の推進方策に従い,主に,抽出した課題を解決するための試験片の材料費に使用する.また,適宜研究成果の発表に必要な費用(論文掲載料,旅費,学会参加登録費)に使用する.
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