試験片を加熱したときに母材と電極材の間に生じる支持反力を,比較的測定が容易であると考えられる変形形状,特にたわみから推定できるかを調べた.このときの試験片には昨年度と同様のリチウムイオン電池の負極板(母材が銅平板,電極材がカーボン膜)を用いた.また,支持反力の推定精度を検証するために,母材である銅平板と,電極材であるカーボン膜をそれぞれ単独で用いて,同様の実験を行った.以上の実験の結果,銅平板およびカーボン膜をそれぞれ均質材としてみなせば,本解析システムによって概ねの支持反力を推定できることがわかった.当初研究計画で懸念されていた大変形や塑性変形が生じた場合についても調べたが,微小変形の場合よりも変形の測定が容易であったので,支持反力の推定に支障は生じなかった.加えて,本研究を通じて以下の知見が新たに得られた.試験片から切り出したカーボン膜を電子顕微鏡で観察したところ,カーボンを焼き固める際に使用したバインダーの分布に偏りがあることがわかった.この偏りが,カーボン膜の縦弾性係数,引張強度,線膨張係数の実験値のばらつきの原因になっていることが示唆された.本研究で開発した解析システムについてまとめると,適用範囲は母材と電極材がそれぞれ均質材で,温度分布がほぼ一様であると仮定できる場合に限られるが,支持反力の推定精度は,電極板の変形をミリメートルオーダーで運用する上では十分であった.また,マイクロメートルオーダーのより詳細な解析システムに拡張する際には,顕微鏡観察に基づく解析モデルの構築を検討する必要のあることがわかった.電流密度分布および接触面剛性の推定については,模擬試験片による検証にとどまったが,実行可能であることが確認できた.実際の電池電極板に適用する場合には,入力データとなる磁場や固有振動数の測定精度と解析精度の相関を調べる必要があるとわかり,今後継続して研究を進める.
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