研究課題/領域番号 |
15K17946
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木村 文信 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (10739311)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 金属・樹脂直接接合 / 射出成形 / 表面微細構造 |
研究実績の概要 |
表面に微細構造が形成された金属部材を金型内に設置して射出成形を行うことで,金属部材と射出樹脂を直接接合させる手法は,生産性の高さから製造業分野で大きく注目されている.しかし,厳密な接合メカニズムが解明されていないため実用化が進んでいない.本研究では「任意に制御された条件下での接合サンプル作製とその特性評価」を接合メカニズム解明のアプローチの1つとしている.初年度は,「条件の制御」と「特性評価」の基盤技術の確立を検討した. 本接合技術は,大きく分けて金属材の表面処理(微細構造の形成)と射出成形という2つの加工技術から構成され,それぞれの加工において手法および条件を設定する必要がある.本年度は表面処理として薬品処理とブラスト処理を利用した.薬品処理に関しては,いくつかの企業等によってすでに実績が出ている手法を採用した.一方ブラスト処理に関しては,先行研究例がほとんど無かったため,接合自体が可能であるかという点から調査し,処理条件の検討を行った.2つ目の加工技術である射出成形に関しては,接合用に独自に開発した金型を用い,型内状況のモニタリングや溶融樹脂の流動制御が可能な状況を準備した.また,成形条件を切り分けてコントロールする手法を検討し,さまざまな条件下で接合サンプルを作製できる実験環境を確立した. 接合サンプルの評価として,界面の観察・分析と強度試験を検討した.界面の観察・分析には電子顕微鏡や電子ビームを利用する分析手法を用いた.また,電子顕微鏡を用いるためには金属と樹脂を同時に含む領域でサンプルを切断し断面を得る必要があり,その切断方法の比較・検討も行った.強度試験に関しては,汎用の引張試験機では正しく強度が測定できない可能性を指摘した上で独自の試験機を開発し,その有用性を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は本課題の初年度であったため,研究を進める上での技術基盤の確立を目指した.特に接合サンプルの評価方法である「接合界面の観察・分析」と「機械特性(接合強度)の試験」を重点的に行った.加えて,サンプルを作製する際の基盤技術の一部と考えられる,射出成形における成形条件のコントロール手法についても検討した. 【界面観察・分析】接合界面の観察・分析のため,走査型および透過型の電子顕微鏡(SEMおよびTEM)と電子線を利用する分析法を用いた.観察・分析のためのサンプル断面を取得する方法として,収束イオンビーム法を用いることが有用であることを確認した.予備実験として,実際にこれらの観察・分析方法で調査したところ,予想とは異なる形態が界面に存在することが確認できた. 【機械特性の試験】接合サンプルの機械特性を評価するために引張試験による接合強度の試験を検討した.特に重ね継手構造を対象にせん断強度を正確に計測する試験構成を検討し,試作機の設計・開発を行った.有限要素法による数値解析や試作機による計測の結果から,汎用の試験機では困難だが,提案手法・試作機では正確なせん断強度が計測可能であることを明らかにした.この結果は当初に想定していたものより有用なものであると考えられる.ただし,試験として疲労試験も検討していたが,基盤の確立までは至っていない. 【成形条件のコントロール】当初の研究計画では次年度に予定していたが,本年度から研究を進めた.標準的な成形機の使い方ではコントロールできない条件群(型内圧など)を独立して制御する手法などを考案し,サンプル作製に関する基盤構築を行った.そして実際にそれらの条件の影響について調査した. 以上,当初の計画に至っていない部分もあるが,想定よりも進んだ結果も得られていることから,総じておおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,1.条件をいかにコントロールして接合サンプルを作製するか,2.サンプルをどのように評価するか,という2項目に大きく分けることができる.初年度ではこれら各々の基盤技術の確立を重点的に実施した.2年度目からは,対応できていない基盤技術の確立を進めるとともに,1.2.の一連の調査をより多く実施してメカニズムの解明を目指す.1.における条件のコントロールとしては,現状では対応が十分ではなかった金属材の表面処理をより検討する.2.における評価方法としては,実施が遅れている疲労試験機の開発を進め,より多角的に評価できる環境の実現を目指す.任意に制御された多様な条件下で作製されたサンプルを,界面の状態把握と強度試験の結果を複合的にとらえ,メカニズムの解明を進める. また,今後は上記の実験ベースのものに加えて,3つ目の項目として,シミュレーション技術の利用を検討する.有限要素法による溶融樹脂の流れの解析や,分子動力学法による成形中に接合部がどのように形成されていくかや試験時の破壊のシミュレーションなどを想定している.シミュレーション技術を通して接合メカニズムの理解を深めるとともに,本接合の特性予測手法の確立を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究成果で発表予定の国際会議(euspen 2016,英国)が次年度にあり,その参加費・旅費を確保するために次年度使用額が発生した.また,少し遅れていた疲労試験機の開発に必要な部品等を追加で購入する可能性があったため次年度の予算として計上した.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度からは,接合サンプルを作製する成形実験が増えることが予想されるため,それにともなって材料の消費量が多くなる.従って,材料を用意するのに必要な予算を前年度よりも多く見積もる.また,サンプルの評価に用いる独自試験機の改良や新規開発が必要となる可能性があるため,その改良・開発のために必要な機械要素部品・電子部品・ソフトウェアの購入に予算を充てる予定である. 研究成果が増えるにつれて公表する機会が増えるため,学会の参加費や旅費にかかる費用が多くなることが予想される.上記のような消耗品の購入費に対する学会参加費・旅費にかかる予算の割合を,本年度までより多くしていくことを予定している.
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