表面に微細構造が形成された金属材を用いてインサート成形することで,成形樹脂と金属材が強固に接合される.本接合技術には,その接合メカニズムが明らかにされていないため,十分な信頼性が得られていないという課題が存在する.本研究では,多様な条件下で形成された接合サンプルの様々な特性を比較することで,接合を発現させる要素の解明を目指した. 表面微細構造の形成方法として,初年度から利用してきた薬品処理やブラスト処理に加えて,本年度では陽極酸化処理,電解液ジェット加工,レーザー加工を用いてより多様な構造を形成する手法を検討した.それぞれの加工方法で,加工条件を変化させることで表面微細構造の形状制御ができることを示した.得られた表面微細構造の評価には,従来用いてきた電子顕微鏡や触針式表面形状測定機(粗さ計)に加えて,原子間力顕微鏡を利用し,これらの測定手法を組み合わせることで,ナノからマイクロスケールの幅広いレンジで形状を定量的に評価した.これにより,異なるスケールの構造の組み合わせが接合特性(強度)に影響を与える様子を確認できた. インサート成形(射出成形)の条件が接合特性に与える影響については,初年度より調査を続けてきたが,本年度は各成形条件の値をより広範囲に変化させて調査を行った.その結果から,成形中に金型内で溶融樹脂がどのように接合を形成していくかのモデルを提案することができた. 接合特性の評価手法としては,初年度から継続していた引張せん断強度試験に加えて,接合面法線方向に負荷を与える引張試験や,線での接合強度を評価するはく離試験などを検討した.加工条件(主に射出成形条件)を変化させたときに,法線方向の接合強度はせん断強度ほど影響を受けないことなどを明らかにした.
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