本年度は「1.バニシング加工によるモーター鉄心用結晶方位制御技術の確立」を引き続き実施し,「2.バニシング加工による結晶方位制御技術の確立」を目指した.昨年度の結果より,バニシング加工荷重が低い場合では,静的再結晶が確認できなかった.これはバニシング加工で導入したせん断ひずみ(転位,蓄積エネルギー)が小さく,その後の熱処理で静的再結晶するに至らず,回復してしまったと考察した.そこで,より大きな加工荷重(6.8 kN)で実験することにより,せん断ひずみ量を調整した.その結果,バニシング加工荷重のみでなく加工度もその後の熱処理における静的再結晶の重要な因子であり,加工荷重と加工度の積であるバニシング仕事量で整理すると,再結晶粒の総面積と正の相関があることがわかった.また,再結晶粒の総面積を再結晶粒数で除すことにより,再結晶粒の平均面積(再結晶粒径)が求まるが,これはバニシング仕事と負の相関を示した.以上より,バニシング加工において素材表層の再結晶粒径を制御できることがわかる. また,「3.結晶有限要素法による結晶法制御原理の検討」も実施した.純鉄単結晶を素材とし,新たに開発した微小単結晶引張試験機により引張ひずみを加え,荷重-伸び線図(応力-ひずみ線図)を取得した.結晶方位を変えて引張試験を行い,本学スーパーコンピュータTUBAMEを利用して,ABAQUSにより結晶有限要素法による解析を行い,結晶塑性パラメータを同定した.これにより,多結晶材に応用すれば,各種変形におけるひずみ量をより定量的に評価できるようになる.
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