研究課題/領域番号 |
15K17948
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
田中 秀岳 上智大学, 理工学部, 准教授 (10422651)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 3Dプリンティング / CFRP / CFRTP / シェル形状 / ラピッドマニュファクチャリング / CAD/CAM / 局所加熱 / パーソナルファブリケーション |
研究実績の概要 |
3D プリンティングには数多くの利点が存在するが,その造形原理に起因する欠点も存在する.樹脂の造形の場合,付加造形法による造形品は層間の強度が低いことや専用樹脂の低靭性から,通常の射出成型品と同等の強度を実現することは難しい.現在生産されている樹脂製品には,電子機器の筐体やカバー類等の薄板シェル形状部品が多く含まれる.しかし,薄板シェル形状の場合にはサポート材の配置等の問題もあり現在はラピッドマニュファクチャリングによる樹脂製品生産は用途が大きく限られている. 本研究では,このような 3D プリンティングの弱点を補う方法として,遂次成形による樹脂薄板成形を提案した.逐次成形法は薄板のシェル形状の多品種少量生産に特化した成形方法であり,金属板のRP,RM の方法として実用化されている.熱可塑性樹脂薄板を加熱し軟化させ目標の深さまで各加工点で逐次的に押下し,最終的に目標形状を得る. 熱可塑性樹脂を加熱により軟化させた場合,軟化から融け落ちまでは非常に小さな温度幅しか持たず温度管理が非常に難しい.本研究では成形材料として,軟化後も繊維強化により自重を支えることができ良成形性を持つ短繊維の熱可塑性CFRPを用いた. 本研究では,予備実験により成形に適した温度域と加工中の材料劣化についての知見を得 た.また,全体加熱を用いての成形実験により試料全体を加工に適した温度に保つことは難しいという知見を得た.そのため,加工部のみを局所的に加熱し,フィードバック制御により目標温度に保ちながら成形を行うシステムを製作し,成形実験を行った.その結果,局所加熱の適用により過熱による破れや垂れ下がりの抑制が可能であるという知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
6ナイロンをマトリックスとする2種類のCFRTPである成形材料を準備した.平織り連続繊維及び不連続短繊維の2種である.予備実験としてマトリクス融点近傍まで加熱して2種のCFRTPの軟化を確認したところ,連続繊維の方は手作業にて変形させることが困難であり,他の先行研究のように大型のプレス装置を必要とすることが判明した.そのため不連続短繊維に対象を絞ることとした. 不連続短繊維CFRTPを対象に予備実験により成形に適した温度域と加工中の材料劣化についての知見を得た.具体的には空気中及び窒素雰囲気にて融点近傍まで加熱保持を行い,その後引張試験機で常温から融点近傍まで加熱しながらの引張特性を測定した.その結果,加熱中の雰囲気の際はほぼ無いことが確認されたため,空気中での成形が可能であると結論づけた. 次に近赤外線ハロゲンヒータを用いてCFRTPシート全体を加熱しての成形実験により試料全体を加工に適した温度に保つことは難しいという知見を得た.特にシートの一部が過熱し融点を超えると融け落ちてしまう現象が頻発した.そのため,加工部のみを局所的に加熱し,フィードバック制御により目標温度に保ちながら成形を行うシステムを製作し,成形実験を行った.その結果,局所加熱の適用により過熱による破れや垂れ下がりの抑制が可能であるという知見を得たが,成形精度としては申請者らの先行研究である金属薄板を用いたインクリメンタルハンマリングに比べると大幅に低い結果となった.従来のハンマ押下型の成形方法ではなく他の成形方法も検討の必要があると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
不連続短繊維CFRTPの過熱による溶融と破断を避けるためにはスポットヒータとフィードバック制御による精確な過熱制御だけでなく局所冷却が必要である.現状では十分に局所加熱部分以外が融点以下に保てるように冷却時間を取っているが,加工時間の大幅な超過を招いている.従って冷却空気による能動的な冷却方法を検討している. 次に不連続短繊維CFRTPより機械的強度に優れる不連続中繊維CFRTPを対象とし対向型工具による逐次成形を試みる.短繊維CFRTPに比べ成形に要する加重は大きい反面,破断に対しては強くなるため対向型工具によるインクリメンタルフォーミング及びハンマリングによる成形を試みる.また,工具と中繊維CFRTP間との摩擦を提言させるため固体潤滑性シートを用い,昨年度までは工具アプローチと過熱方向が同方向であったが,本年度は成形装置を改良し表面から過熱及び冷却を行い,裏面から工具を接触させることでより成形性が向上することを見込んでいる. さらに本年度では昨年度は除外した連続繊維平織りCFRTPの逐次成形を可能とするために,より大きな荷重を成形に用いることのできるへら絞りに着目し,NC旋盤と局所加熱による連続繊維CFRTPのへら絞りによるシェル形状逐次成形についても検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
成形装置を更新および改良予定であったが,昨年度中に装置の選定及び更新が行えなかったため,次年度に引き継ぐこととした.
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次年度使用額の使用計画 |
対向型ハンマによる逐次成形を可能とする成形装置を構築するために3自由度のステージを備えた装置を整備する.そのために昨年度使用予定であった金額を使用する.
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