研究課題/領域番号 |
15K17950
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
阪口 龍彦 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00403303)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スケジューリング / ネスティング / 精密板金加工 / 遺伝的アルゴリズム / 共進化 / ディスパッチングルール |
研究実績の概要 |
持続可能社会の実現に向けた環境負荷低減と同時に,製品ライフサイクルの短縮化に対応した迅速生産を行うためには,設計情報と作業情報とを合わせて有効活用することが不可欠である.精密板金加工を対象とする本研究では,金属材料の無駄の削減と作業効率の向上の両立のために,共進化遺伝的アルゴリズムによる加工レイアウトと生産スケジュールの同時最適化を試みる. 加工レイアウトの決定と生産スケジュールの決定は,本来その最適化の対象も目的も異なるため,従来は個別に最適化が行われてきた.しかし加工レイアウトと生産スケジュールには関連性があり,しばしばトレードオフ関係が存在する場合がある.総合的な観点から効率化を図るためには,これらの統合化が必要不可欠であるが,その要素技術となる個々の最適化アルゴリズムの性能が,統合化後の解の精度に大きな影響を与える.加工レイアウト決定アルゴリズムは先行研究により比較的良好な結果を得ていたが,スケジューリングアルゴリズムの性能が不十分であった. そこで,先行研究の計算機実験の結果から得られた知見を元に,部品の構成や残り工程数を考慮した新しい評価関数を提案し,それに基づくディスパッチングルールを用いたスケジューリング手法,および遺伝的アルゴリズムとディスパッチングルールを融合したスケジューリング手法を提案した.前者のスケジューリング手法は組立工程を有する多品種フローショップ・スケジューリング問題に適用可能であり,その開発意義は高いと言える. さらに,共進化遺伝的アルゴリズムによる統合化のために,加工レイアウトおよび生産スケジュールの目的関数のコストによる統一化,致死遺伝子の発生や共進化の停滞を抑制するための遺伝子のグループ化手法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
持続可能社会の実現,顧客の多種多様なニーズに即応するための迅速生産の実現への関心が高まる中,設計から生産までの情報を一元管理することで,環境負荷低減を意識しつつ,生産準備にかかる期間を短縮することが可能となる.こうした考えの下,その具体例として精密板金加工を取り上げ,加工レイアウトおよび生産スケジュールの決定の統合化を試みる.その前準備として,スケジューリングアルゴリズムの改良を行ってきた. 精密板金加工では,金属板から複数の部品を切り出し,各部品に曲げ,溶接,組立などの処理を施すことにより製品を製造する.曲げ以外の工程では複数の部品をまとめて処理する必要があるため,待ち時間が長期化するという問題が発生する.これに対し,製品の部品構成や納期,各部品の必要工程数など,スケジュールの最適化に影響を及ぼす複数の評価項目からなる複合的な目的関数を提案し,ディスパッチングルールに適用した.またこれを応用し,加工レイアウトと密接に関係する抜き工程のスケジュールの決定を遺伝的アルゴリズムで,それ以外の工程のスケジュールをディスパッチングルールにより求める融合型のスケジューリング手法を提案した.これにより,先行研究のスケジューリング手法より平均で約7%納期遅れを改善することができた. 一方,共進化遺伝的アルゴリズムによる加工レイアウトと生産スケジュールの決定の統合化に向けて,これまで別々の目的関数として取り扱ってきたものを,コストを導入することで統一化した.さらに,共進化の概念を適用するために部品名を配列とする遺伝子コーディング,共進化の際に致死遺伝子の発生や進化の停滞を抑制するための遺伝子のグループ化手法を提案した.これにより共進化遺伝的アルゴリズムの適用が可能となり,約3%のコスト削減を実現した. 以上より,初年度の計画はおおむね順調に進展したと共に,次年度に向けた準備も進めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
共進化遺伝的アルゴリズムによる加工レイアウトと生産スケジュールの同時最適化手法を提案する.初年度の予備検討により,加工レイアウトおよび生産スケジュールの決定に共進化遺伝的アルゴリズムを適用するために,両者の遺伝子表現を共通化し,グループ化を行うことで致死遺伝子の発生および進化の停滞を抑制することが可能であることが確認できた.また,両者をコストという共通の評価指標の下で最適化することで,従来の個別の評価指標の下で最適化を行うよりも良好な解を得られることが確認できた.しかし,総コストは削減できたものの,スケジューリングに関するコストが増加するケースも見られた.そこでまず,その原因を究明するために,提案したコストによる評価指標の再検討を行う.同時に,精密板金加工関連企業等の意見を聞きながら,コストによる評価指標の妥当性を確認する. 次に,共進化遺伝的アルゴリズムの求解精度を向上させるために,従来提案されている島モデル型分散遺伝的アルゴリズムの考え方を応用した新たな共進化アルゴリズムを提案する.異なる環境の島(加工レイアウトと生産スケジュール)でそれぞれ進化をしつつ,時に移住を行いながら,一つの目的(コスト最小化)に向けて進化していく様をモデル化し,数値実験によりその有効性を示す.
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次年度使用額が生じた理由 |
提案アルゴリズムの実装に時間を要し,数値実験用の計算機資源の機器選定が遅れたため実装用計算機資源で代用したことにより,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画のアルゴリズム実装はおおよそ完了したため,数値実験用計算機資源の拡充および周辺機器の拡充に充てる.
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