研究課題/領域番号 |
15K17964
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
徳田 祐樹 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第二部表面・化学技術グループ, 副主任研究員 (30633515)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非晶質炭素薄膜 / ダイヤモンド・ライク・カーボン膜 / トライボロジー / 表面改質 |
研究実績の概要 |
一年次の研究では、水素含有DLC膜にボロンを添加することで導電性を付与し、摺動界面で生じるトライボプラズマの制御を試みた。トライボプラズマの制御により、摺動により発生する摩耗粉(自己潤滑性粒子)の生成条件を検討した。「ボロン添加水素含有DLC膜」を試作した結果、膜内部へのボロンの添加により導電性の制御が可能という知見を得た。一方で、ボロン添加水素含有DLC膜は摩擦試験開始直後に膜が剥離し、摺動特性の検討が困難な状態であることを確認した。そこで二年次以降では、原料ガスを変更するなどの処置により、成膜技術の最適化を検討している。 また同時に、「ボロン添加水素含有DLC膜」に代わる新規的DLC膜として、膜内部に塩素を含む「塩素含有DLC膜」の開発にも取り組んでいる。DLC膜内部に塩素を添加することで、相手材との摺動界面において摩擦により塩素系トライボフィルムが形成され、更なる低摩擦化が実現可能と考えた。塩素含有DLC膜を試作した結果、無潤滑環境下でのアルミニウム合金との摩擦において、一般的な水素含有DLC膜よりも摩擦係数が50%低減し、かつ耐摩耗性および低相手攻撃性が向上することを確認した。塩素含有DLC膜とアルミニウム合金との摩擦試験後の摩耗痕に対し各種機器分析を行った結果、摺動界面に「塩化アルミニウム六水和物」という塩素系反応膜(トライボフィルム)が形成されていることを確認した。この物質は常温・低湿度では固体だが、潮解性であるため、水分子の吸水により容易に液体化する。以上の結果より、塩素含有DLC膜とアルミニウム合金との摩擦界面には、大気中の水分子の吸水により液化した塩化アルミニウム六水和物が介在しており、潤滑効果を付与した結果、摩擦特性が向上したと考えられる。以上より、無潤滑環境でも優れた摺動特性を示す新たなトライボシステムの確立への可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年次前半の研究では、トリメトキシボロンを原料とした「ボロン添加水素含有DLC膜」の形成を行った。その結果、摩擦試験開始直後に膜が剥離し、摺動特性な検討が困難な状態であることを確認した。そこで二年次以降では、原料ガスを変更するなどの処置による製膜技術の最適化を検討している。 一年次後半の研究では、新たな固体潤滑薄膜のコンセプトとして、膜内部に塩素を含む「塩素含有DLC膜」の開発にもに取り組んだ。その結果、塩素含有DLC膜はアルミニウム合金との摩擦において、産業界で一般的に使用されている水素含有DLC膜と比較して低摩擦・高耐摩耗性・低相手攻撃性を示すことを確認した。一方で、各種機器分析の結果、摺動界面に何らかの塩素系反応膜(トライボフィルム)が形成されていることを確認したが、摩擦特性が向上した具体的なメカニズムの解明には至らなかった。そこで二年次の研究では、トライボフィルムの形成による摩擦特性向上のメカニズムの解明に取り組んだ。塩素含有DLC膜およびアルミニウム合金の摩耗痕に対し、フーリエ変換型赤外分光分析、飛行時間型二次イオン質量分析装置、X線光電子分光分析を行った結果、摺動界面には「塩化アルミニウム六水和物」が形成されており、摩擦特性の向上に寄与したことを明らかにした。この低摩擦化メカニズムの解明結果は前例がなく、新規性の高い研究成果と考えられる。今後、トライボフィルムの積極的な活用を目的とした、新たな固体潤滑炭素膜のコンセプトを構築する上で、本研究成果はキーファクターの一つになりうると考えられる。 以上より、ボロン添加水素含有DLC膜の形成技術の確立という課題は残されているが、塩素含有DLC膜の低摩擦化メカニズムを解明できたことから、「無潤滑環境でのDLC膜の超低摩擦現象の実現」という点については、おおよそ順調に研究が進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
一年次前半の研究では、トリメトキシボロンを原料とした「ボロン添加水素含有DLC膜」の形成を行った。その結果、摩擦試験開始直後に膜が剥離し、摺動特性の検討が困難な状態であることを確認した。そこで二年次以降では、原料ガスを変更するなどの処置により、ボロン添加水素含有DLC膜の形成技術の最適化を検討している。 一年次後半および二年次の研究成果として、塩素含有DLC膜とアルミニウム合金の低摩擦化メカニズムを明らかにした。この現象は、摩擦界面において塩素とアルミをベースとしたトライボフィルムが形成されることで、摩擦係数が低減することを確認した。以上のことから、摩擦に用いる相手材を変更することで、摩擦界面で形成されるトライボフィルムが変化し、異なる摺動特性を示すと考えられる。そこで三年次の研究では、鉄鋼材料である高炭素クロム軸受鋼およびステンレス鋼や、セラミックス材料であるアルミナおよびシリコンカーバイドなど、異なる材料と塩素含有DLC膜の摩擦特性を評価する。摩擦試験後の摩耗痕に対し各種機器分析を行うことで、各材料での摩擦摩耗メカニズムの解明を目指す。この研究により、塩素含有DLC膜の適用範囲の拡大および設計指針の確立を目指すとともに、学術的な摩擦現象の解明に取り組む。同時に、現在検討を進めているボロン添加水素含有DLC膜の成膜指針が確立され次第、塩素含有DLC膜との摺動特性の比較および、摩擦メカニズムの解明を行う。 以上のコンセプトをもとに、摩擦界面で発生する諸現象を活用した、新たなトライボシステムの確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ボロン添加水素含有DLC膜の成膜が予定通り進んでおらず,試料基板の購入および製膜処理費用が未使用となってしまった。また、塩素含有DLC膜の成膜母材にはアルミニウム合金を使用しており、基板の費用が安価であった。
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次年度使用額の使用計画 |
今後はボロン添加水素含有DLC膜の成膜母材の選定・購入を行う。また、ボロン添加水素含有DLC膜の最適製膜条件を検討し、成膜処理に費用を充てる。
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