研究課題/領域番号 |
15K17968
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
福島 啓悟 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50725322)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ液滴 / 分子動力学 / 粘性係数 |
研究実績の概要 |
本研究は平行平板で構成されたナノメートルオーダーの微細流路の内部に生じた液滴の粘性係数が微細流路の幅に対してどのように依存しているのかに注目し,分子動力学法に基づく数値計算を用いてこれを明らかにした.また,液滴を構成する原子と壁面を構成する原子の相互作用の大きさを変化させることで滑り長さを変化させ,滑り長さに対する粘性係数の依存性も明らかにした.流路幅は3nmから10nmまで1nm刻みで変化させた8個の微細流路を用いた.粘性係数は固体壁面を動かすことで液滴をせん断し,内部に生じているせん断応力を内部に応じているせん断速度で除して求めた.せん断応力はそれぞれの流路幅で液滴の原子数が異なる10個の液滴を考え液滴-固体壁面の接触面積を変化させ,その時の液滴-固体壁面間の摩擦力を計算し,接触面積に対する液滴-固体壁面間の摩擦力増加率から求めた.液滴を構成する原子は計算量を抑えるためにAr原子とした.せん断によって液滴の温度が上昇することを考慮し,液滴の粘性係数が同じ温度におけるBulk状態の粘性係数との比を評価した.その結果,液滴の粘性係数は流路幅が小さくなるとBulk状態との比も小さくなることを明らかにした.また,その減少量が滑り長さに依存しないことを明らかにした.これにより本研究の骨子の一つである「液滴の粘性係数の流路幅依存性」を示すことが出来き,その依存性が濡れ性などの性質に大きく依存する可能性が小さい事を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究ではテーマの一つであった「液滴の粘性係数の流路幅依存性」に関する計算結果を得ることが出来たためかなり進展しているといえる.しかし,論文を年度内に出版する目標であったが,現在執筆中であり予定がずれ込んでいる.そのため,概ね順調に推移しているという判断とした.壁面モデルにこれまで使っていたものを用いたことや,液滴を水からArに変化させたことにより高速な計算が行えるようになり,研究を効率よくすすめることが出来たものと考えられる.今後は論文執筆を重点的に行い,効率よく研究を行っていきたいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は計画の初年度にあたる気液界面のない系における粘性係数の依存性を明らかにする.気液界面がない系を作成することで表面張力の影響のない状態における粘性係数の依存性を明らかにする.昨年度と同様に固体壁面を動かすことで液体内部にせん断を加えて,得られたせん断応力とせん断速度から粘性係数を求める.また,昨年度と同様に粘性係数の温度依存性を考慮し,Bulk状態との比をとって評価を行う.これにより気液界面が与える影響を評価できる.また,本研究で行ったAr液滴を水液滴に変えて計算を行う.これは,数10MPa以上のラプラス圧や親水性の時に生じる負の大きな圧力が粘性係数に与える影響を明らかにすることを目的としている.昨年度に使用した固体壁面を用いて微細流路を作り,内部に水液滴が生じている状況を考える.それぞれの流路幅を持った微細流路で水分子数の異なる10個の液滴を考え,固体壁面との接触面積を変更する.液滴-固体壁面感に生じる摩擦力の流路幅依存性から液滴に働くせん断応力を計算し,内部に生じているせん断速度で除して粘性係数を求める.これも先と同様に温度への依存性を明らかにするために,Bulk状態との比をとって比較を行う. 昨年度に得た結果と本年度に得た結果をまとめて,粘性係数の流路幅依存性を表す式を作成し,せん断応力の式に組み込む.これによりナノメートルにおける摩擦力のより正確な理解が可能になり,今後のナノデバイス設計において非常に有用な知見を得ることができると考えている.
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