塩分成層流体中を一定速度で鉛直移動する球まわりの流れを、PIV法を用いた室内実験と三次元直接数値シミュレーションによって調べた。この系の特徴は、塩分成層が強い場合に球の背後に生じる、強い軸対称鉛直流、すなわち「ジェット」である。塩分成層の強さ、あるいは浮力が流体運動に及ぼす影響度はフルード数と呼ばれる無次元パラメータによって特徴づけられる。 昨年度以前の室内実験による成果は、フルード数が0.1以下の強い塩分成層流体における、軸対称ジェットから乱流ジェットへの遷移を発見したことであった。そこで今年度は、流れのフルード数依存性を詳細に調べたところ、ジェットの乱流化は突如起こるわけではなく、軸対称ジェットと乱流ジェットの中間状態が存在することが分かった。すなわち、フルード数がある臨界値を下回ると、ジェットの軸対称性が破れ、ジェットは蛇行する。このとき、ジェットの鉛直速度は依然として大きいままであり、ジェットの太さにも大きな変化は見られない。そしてフルード数がさらに小さくなると、蛇行ジェットは乱流化する。このとき、乱流ジェットの鉛直速度は大幅に小さくなり、ジェットも太くなる。また、あるフルード数の範囲においては、蛇行ジェットと乱流ジェットのどちらもが観察された。 三次元数値シミュレーションでは、フルード数が10から50程度の比較的弱い塩分成層を対象とした。フルード数が大きいときには、一様密度流体でも見られるヘアピン渦の放出が見られた。一方、フルード数が10程度の流れでは、軸対称渦の周期的な放出が確認され、これは先行するシャドウグラフ法による実験で観測されていた、節をもつジェットに対応することが分かった。
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