研究課題/領域番号 |
15K17975
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
中井 唱 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80452548)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 微生物 / 時空間構造 / 集団運動 / アクティブマター(自走粒子) / 流動 / ゆらぎ |
研究実績の概要 |
【A. 細菌の集団運動の時空スケールについて計測と数値解析】細菌どうしの衝突の効果を考慮し,集団運動形成の2次元数値シミュレーションを行い,観察結果との比較を行った.集団に属する個体数の平均値は,tumble(方向転換)の頻度が多くなるにつれて小さくなるが,実験とシミュレーションでは集団に属する個体数の平均は数個体程度の差であった.また細菌の速度ベクトル間の相関を調査した.3-5秒に1度のtumbleをシミュレーション上で考慮することで,観察結果と同様の速度相関を再現できた. 【B. 細菌の集団運動による微粒子の輸送】集団運動する細菌懸濁液中にマイクロビーズを混合し,ビーズと細菌の速さの比較や細菌の集団運動による拡散を計測した.細菌の集団運動による拡散は平均二乗変位が時間の1.6-1.7乗に比例し,一般的なブラウン運動とは異なることが分かった. 【C. 周毛性細菌の方向転換特性の調査】誘引物質がない場合での枯草菌のtumble時の方向とtumble間の遊泳速度,時間を計測した.方向転換の角度分布は60-80°付近にピークを見ることができた.速度は10-15μm/s に菌の多くが分布しているが,tumble間の時間はばらつきが大きく,1-10sの間に多く分布している.今後,誘引物質がある場合での枯草菌のtumble頻度と比較することで,走化性が枯草菌のtumbling頻度に与える影響の調査にも応用可能である. 【D. 回転する細菌べん毛間の相互作用に関する数値解析】低レイノルズ数流れにおいて近接して回転する二本のらせん型べん毛の数値解析を実行し,バンドル形成過程におけるべん毛に作用する流体力とそれに伴うべん毛の変形を調査した.二本のべん毛はお互いが捩れる方向に変形していく.べん毛と菌体それぞれ単独の回転だけで二本のべん毛は捩れていくが,両者の回転に伴うべん毛の変形量は同程度である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では初年度に(i)細菌の集団運動の時空スケールについて,計測と数値解析, (ii)流路での集団運動計測と走化性の計測,を行う予定であった.上にあげた業績の概要のうちA, B, Dが(i)に該当し,Cが(ii)の予備的調査に該当する.(i)については十分な実績を挙げており,順調である.(ii)については細菌を観察可能な適当な流路作成に至っていないが,カバーガラスを組み合わせた簡単な流路や,毛細管に熱を加えて引き延ばすことでμmサイズの流路も自作可能な環境を整えたので,次年度すぐに(ii)に関する研究が進展するものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に実施予定であった(ii)流路での集団運動計測と走化性の計測,に着手する.前年度にマイクロマニピュレータを導入しており,微小流路における細菌の制御を行うための基盤を整えつつある.当初予定していた微細流路は感光性樹脂を用いたものであったが,隙間からの流出などがあり,細菌を観察可能な適当な流路作成に至っていなかった.カバーガラスを組み合わせた簡単な流路や,毛細管に熱を加えて引き延ばすことでμmサイズの流路も自作可能であることを確認しており,流路形状のパラメータは再現性が低いが,集団運動の観察を進めていく.これまでの業績Aで,細菌の集団運動の特徴的スケールが分かっており,得られた知見を参考に流路を作成する. 走化性の計測に関しては,マイクロマニピュレータを用いて誘引物質の配置を行い,細菌集団の制御を試みる.細菌がセリンに対し正の走性(近づく),フェノールに対して負の走性(遠ざかる)ことを利用して,前年度に作成した流路を用いて,集団運動の制御を行う.細菌集団が移動する際,集団運動の渦構造がどのように変形するかを調査する.流路の一端にセリンを配置するか,セリンを混ぜたゲルを流路に配置するなどして,誘引物質の濃度勾配をつける. Aで得られた渦構造と同等・あるいはもう少し大きなベシクル構造(小胞体構造)を,リン脂質を用いて作成する.リン脂質を有機溶剤に溶かして真空乾燥することでドライフィルムを作成し,水和させることで大きさ数十μmのジャイアントベシクルが形成される.細菌がベシクルに内包された状態で,培養を継続させる.微小空間の効果による培養速度の変化や,菌数の増加によるベシクルの変形を計測する.またベシクル外部環境に誘引物質の濃度勾配をつけることにより,細菌集団がベシクルと共に移動する様子を計測する.
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