遊泳細菌の密集時に起きる集団運動について,発生メカニズムの理解と運動の制御を目指して,下記の項目を実施した. 1.微小空間に集団運動を閉じ込める系の構築を行った.熱により細長く引き延ばしたガラス棒を,マイクロマニピュレータに装着し寒天培地上に押し当てることで,大きさ数十μm程度の微小な円形プールを作成し,プール内での細菌の集団運動を観測した.プール内に密集する細菌群は菌体の向きが揃っており,プールの円周に沿った方向の集団運動が見られる.この細菌群を,マニピュレータを用いて培地上を運ぶとプール内の細菌が少しずつ培地上に取り残されていき,細菌数密度が低い状態となる.この状態では個々の細菌は自由な方向に遊泳を行い,集団運動は見られない.このことから,同一の細菌群の数密度が低下することにより,遊泳方向の揃った集団運動から個々のランダムな方向の遊泳運動へと変化することが分かった. 2.集団運動の制御の可能性を探るため,誘引物質(セリン)を充填した毛細管の先端に細菌が集積する様子を観測し,細菌の速度や方向転換の頻度や角度分布などを調査した.誘引物質の存在下では,細菌の方向転換の頻度が下がる(0.5 Hz → 0.3 Hz)ことと,10分程度で誘引物質の周囲100μmの範囲に細菌が集積することが分かった. 3.集団運動する細菌懸濁液に直径4μmの微粒子を混合し,その微粒子の動きと周りの細菌の動きとの関係を調べた.微粒子の運動軌跡はブラウン運動の様であるが,平均二乗変位が時間間隔の1.7-1.8乗に比例し,ランダムウォークとは異なる.微粒子が細菌集団の流れに沿って運動する場合,双方の速度はほぼ同じである.
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