近年、分析化学分野や生物・医学分野、さらには燃焼科学分野をはじめとした幅広い分野において、非接触流体制御技術が注目されている。特に、非接触流体制御技術の1つである超音波浮遊法は、容器壁面からの汚染の影響を抑制することや流体次第では人体への危険を回避することが可能であるというメリットに加え、静電浮遊法や電磁浮遊法などのその他の浮遊法と比較した場合に、制御対象流体に制約がないことから積極的な活用が望まれている。しかしながら、申請者による強力超音波による液滴浮遊実験により、浮遊液滴には、回転や振動、さらには分裂・微粒化に加え、大変形を伴う界面変形や内外部流動など、非線形でダイナミックな挙動が発生することが明らかとなっている。このような浮遊液滴の非線形ダイナミクスが非接触流体制御の安定性に及ぼす影響については、理論的や解析的な知見は拡充されてきたものの、実験技術上の困難が主な理由となって、実験的知見が乏しいのが現状である。 本研究では、超音波浮遊液滴の非定常並進運動に関する定量的実験情報を収集し、かつその制御を試みることで非接触流体制御技術の基礎の確立に資する実験的知見を拡充することができた。これまでに純水、エタノール(表面張力の影響)、グリセリン(粘性の影響)を用いて、流体物性が浮遊安定性に及ぼす影響について明らかにするとともに、特に当該年度は液滴の動的挙動および液滴周囲の音圧分布情報を基に、非定常並進運動をモデル化した。具体的には、浮遊液滴の非定常並進運動に対して周波数解析を施すことで、固有振動数を特定し、音場と浮遊液滴の非定常並進運動の関係を定式化した。加えて、浮遊液滴の微粒化挙動の発生条件の特定のための高時空間分解能下での浮遊液滴の微粒化過程の観測にも成功するとともに、既存理論と比較することで微粒化メカニズムの検討も行った。
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